泉鏡花随筆集から『露宿』と『十六夜』
岩波文庫版のこの随筆集は厚い(ページ数が多い)上に文語体旧仮名遣いなのでスイスイと読むというわけにはいかない。旧漢字でもあるしその上当て字も多いけれど、そちらはルビ付きなので問題ない。しかしこれが現代文新仮名遣いにされたら、泉鏡花らしい味わいや文章のリズムを大いに損なうことであろう。
今回取りあげた『露宿』と『十六夜』という二つの文章は、1923年9月の話である。1923年とは大正12年、関東大震災のあった年である。『露宿』は震災のあった9月一日以後、二日から三日にかけての様子を描いている。泉鏡花が住んでいた借家は高台にあり倒壊には遭わなかったが、眼下に火の手が見えるなか、風向きによって右往左往する。あわやというところで最後は事なきを得たのは幸いであった。
生々しい実体験の恐怖、さらに焼け出された人の話を聞き取ったり、亡くなった人の話、燃え上がる火の粉が宙を飛び、彼方に引火する様子などがリアルに描かれている。震災の全体ではなく、自分が見たり聞いたりしたことだけが書かれているので一層迫力がある。露宿とはもちろん野宿のことである。余震がしきりに起きるので、家のなかは危険だったのだ。
さらにそのあとの被害の様子が明らかになってからの話が『十六夜』にまとめてある。人々が助け合う様子、焼け出されながらも懸命に人のために働く人たち、遠方からわざわざ鏡花の元に見舞いに訪れる人々の姿に、心を衝つものがある。泉鏡花が普段書く内容とはまるで違うことが却って真実を伝えているような気がする。この本をようやく半分読んだ。![]()
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