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2020年4月12日 (日)

一冊だけ

 何かの理由で拘束されて、本は一冊だけしか持つことが許されないといわれたらどの本を選ぼうかと思案した。

 

 張岱(ちょうたい)の『陶庵夢憶』にしようか。張岱は明末、江南の大金持ちで博覧強記の人。陶庵は彼の号のひとつ。明が滅んですべての資産と厖大な著書すべてを失った。貧窮に隠遁して昔を偲んで書いた随筆がこの『陶庵夢憶』である。岩波文庫に収められていて、私はワイド版で二冊持っている。一冊は風呂場で読みながら居眠りして浴中に落下させ、それでも何とか修復した。なんとか普通に読めるが念のためもう一冊買ってある。すでに三回読んだが、何度読んでも面白い。

 

 その本がかなわなければ桑原隲蔵(くわばらじつぞう)の『考史遊記』(これも岩波文庫)にしようか。桑原隲蔵は桑原武夫のお父さんで中国学者。この本は明治の末、太平天国のあとの荒廃した中国国内を苦労しながら古跡を訪ね歩いた紀行文である。自分で撮った写真なのであまり鮮明ではないが、写真が豊富に収められていて、淡々としながらも深い知識に裏打ちされた文章は、そこにいるような気にさせる名著である。この本は何と三冊もある。一冊は線をひいても好いための本。一冊は保存用。そして一冊は父のために買った。父の死後誰も読む可能性がないので引き取ったので、三冊あるのだ。この本も三回読んだ。

 

 どちらの本も何回でも読めるからいいのだ。少し昔なら森本哲郎の本を一冊選んでいたかもしれない。たいていの本は数回読んでいる。選ぶ本はすぐ変わる。本当は一冊だけなんて選べるはずがないのだ。そんな境遇にならないことを願う。あの世にまで持っていきたい本はたくさんあるのだけれどなあ。

 ところで人一番不器用で手際の悪い私は本箱の組み立てに悪戦苦闘。思ったより重くて大きかった本箱がようやく完成したときには疲れ果てて本を選んで並べるという楽しみは後にせざるを得なかった。まあそれも今日明日は雨らしいからゆっくり楽しめる。

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コメント

おはようございます。

本を読むことは、人によってはご飯を食べると同じように重要です。
買わないまでも毎日本屋に寄り道していた私にとっては、コロナで本屋が閉店しているのが、何より不便です。
買おうか買うまいか、迷って買わなかった本。あの時買っておけば良かったなんて。
たまにはじっくりと「最高の1冊」を吟味するのも楽しいですね。(^^)v

ハル様
コメントをありがとうございます。
今は本屋と古本屋が半分、あとはネットでの購入です。
Kindleで図書目録を眺めて、買う本を選べるので便利です。
この頃は新刊(文字通り出たばかりの本)を買うことが減りました。
お陰で本代が以前よりかからなくなりました。

こんにちは
今の私の状態はコロナ蔓延のせいで仕事も半ドン、あとは家での仕事です。
少しシチュエーションは違いますが、こんな時どんな本を読みたいかなあ?と思案しましたら司馬遷の『史記』や陳寿の『三國志』をじっくりと読みたいなあ、と思いました。
特に『史記』は歴史書ながらそれ特有の”無味乾燥さ”を感じさせず、それどころか人間ドラマを感じさせてれる本で、他の人にも勧めています。
しかし、一冊しか本が持てないというのなら、多分特に西洋の方は『聖書』を、そしてイスラム圏の方は『クルアーン』を挙げるでしょうね・・・。
では、
shinzei拝

shinzei様
何回読んでもちょっとだけ分かって嬉しくて、しかももう一度読んで見たくなる本というのがいいですね。
けっこうあります。
世のなかには私が思うよりも、もっともっとそういう本があるのでしょうね。

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