北方謙三『楊令伝 十一傾暉の章』(集英社)
金による宋の滅亡後、金に連れ去られた宋の皇帝一族の遠戚を皇帝として南宋が樹立されたが、金に対する抵抗軍に守られただけの、国家と言えるほどの体裁はまだ整っていない。宋から離脱した岳飛や張俊はそれぞれ軍閥を形成して南宋に合流しようとはしない。それらの軍閥と梁山泊、そして金は互いに牽制し合いながら不安定な関係にある。
その間隙を縫って楊令は西域と日本を繋ぐ壮大な交易路の構築を進めていく。西夏や、すでに滅びた遼のもと北方軍閥の耶律大石との交渉により、ついに交易路が指導する。その護衛に楊令自らが出動する。順調に推移すれば楊令の思い描く梁山泊という国家が現実化していくはずだ。
この楊令の思い描く国家は、あのハンニバルで有名なカルタゴのようではないか。交易によって小さいけれど豊かな国だった。それがどういう末路を迎えたのか。ローマ帝国によってほとんどすりつぶされるようにして地上から消滅した。このカルタゴについて森本哲郎が、日本と対比して本を書いていて忘れがたい。梁山泊には果たしてどのような未来があるのだろうか。
岳飛がついに動き出し、金と戦い、さらに梁山泊と戦う。事態は大きく動き出した。さらに金も国内の勢力争いが新しい展開を迎えている。その背後ではのちに元となるモンゴルが胎動しているはずだが、この巻ではまだ表に出てこない。
« 主導できずに振り回されているように見える | トップページ | ちょっと無常感 »
コメント