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2020年4月23日 (木)

安岡章太郎『対談 僕の昭和史』(講談社)

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 随筆集に関連してこの本を読み直した。著者の『僕の昭和史』Ⅰ、Ⅱ、Ⅲが刊行されたあとで、七人の人たちと昭和史について語り合ったものを本にした。初出を見ると、それぞれ別の月刊誌での対談をまとめたようだ。

 

 一人目が井伏鱒二で、とうぜん話は押しかけ弟子で、井伏鱒二に迷惑をかけ続けた太宰治に言及することになる。それは想像を絶するもので、井伏鱒二はそのために経済面だけではなく、精神的にもずいぶん苦労している。たしか鈴木健二(気配りのすすめの人)が太宰治にずいぶん金を無心されたと書いていたけれど、それなら金田一京助の方がはるかにむしられた。しかしそれについてついに生前一言もグチを言わなかった(金田一京助の夫人が太宰治という名前を聞くだけで怒りに震えたらしいから、よほどすさまじかったようだ)。それにひきかえ鈴木健二が自慢そうに何度もぼやいて見せたのが私には鼻についた。太宰治にやった金の元を取ったのではないか。ところで井伏鱒二は最後まで太宰治を見捨てなかった。

 

 戦前から戦後すぐにかけての文学界にスポットを当てれば、太宰治を語らずにすませるわけには行かない。いま読んでいる文芸評論家の奥野健男も太宰治を論じた文章で世に評価されることになった。そんな人は多い。ますます太宰治を読まなければならない気がしてきている。

 

 私も昭和25年から64年までを生きたから、昭和が最も長いことになるのは確かだ(まさか平成で40年以上生きることはないだろう)。物心ついてからの最初の記憶は、父親の肩車で、電気屋の前の群衆とともにテレビでプロレスを見たことである。東京タワー、新幹線、東京オリンピックなどなどそれぞれに思いだすことはあるし、個人としてさまざまな思い出もある。思えば私の経験した昭和はもののない時代からありあまる時代への、右肩上がりの時代だった。
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