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2020年4月13日 (月)

『奥野健男文学論集 Ⅰ』(泰流社)

 著者の初期の文学論の論文が収められている。特に難しい言い回しが使われているわけではないが、論旨が素直に頭に入るまで、つまり著者の文章そのものに慣れるまで時間がかかった。ときどき10~30ページを読むペースだったので読了に二ヶ月ほどかかってしまった。我ながら粘り強くなったものである。それなりに興味深く、面白く読めたからでもあるが。

 

 去年秋に古本屋で奥野健夫の全集五巻本が安価で棚に列んでいるのを見つけた。過去に太宰治に関する短いものを読んだ記憶があるだけだったが、評論文に興味が向いていたところだったし、懐に響かないほど安かったので即購入した。箱は傷んでかび臭いが、中の本は問題なし、ちゃんと付録の月報も完備している。奥野健夫のこのシリーズは三回に別れていて、第一集が三巻、第二集が五巻、第三集まであるらしいが第三集については不明。私が手に入れたのは第二集の作家論集であった。このあとAmazonなどで第一集の三巻を手に入れ、今回読了したのはその第一巻である。

 

 本巻で興味深かったのは、自然主義文学論、それからの派生であるプロレタリアート文学、また私小説小説についての論文だ。明治末からの日本の小説の動向を奥野健夫の視点から照明を当ててくれていて、だからそれに引かれて田山花袋の『蒲団』を読み直したりした。

 

 著者の視点は私と相容れない点が多々ある。しかしそれはこれらが書かれたのは戦後すぐの頃で、世の中の風潮が左翼的であったことを受けているからだろうと思われる。二巻以降、時代とともに視点が変わることを期待している。戦後のさまざまなタイプの作家が輩出した時代を明快に切り分けていて、なじみの作家が論じられているのも楽しい。白樺派が老醜の復活のように断じられているのは、志賀直哉好きの私としてはいささか不満であるが。  

 

 ひとつだけ読み難いものがあった。本家フランスの自然主義文学について論じた『フローベール・ゾラ・モーパッサンの印象』という論文で、フローベールについては『ボヴァリー夫人』、ゾラについては『酒場』、モーパッサンについては『女の一生』を題材にして論じている。この中で私が若いころまともに読んだのは『女の一生』だけで、『ボヴァリー夫人』は図書館で借りたことはあるがさっぱり面白みを感じることが出来ずに放り出した。ゾラは『ナナ』という娼婦(?)の話を読んだことがある。暗い話しだった。これが私の自然主義文学の印象に影を落としている。

 

 この論文が読みにくいこと甚だしい。くどいし、論旨が伝わりにくい。なんだか素人臭いなあ、と思って読み終わったら、文末に、著者自身の注釈があり、大学生時代21歳の時に書いた論文の草稿を編集者が強引に全集に入れたのだという。うーん、何だかなあ。それにしても21歳かあ。
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