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2020年7月27日 (月)

知性の欠如

 蒋廷黻(しょうていふつ)の『中国近代史』はアヘン戦争から説き起こされている。陳舜臣の『実録アヘン戦争』も併せて経緯を読んでみると、「アヘン戦争」と呼んでいるのは清国側であって、イギリス側は「通商戦争」と称していたようだ。その害毒の甚だしいことをよく承知していたから、自国では流通を公的には禁止していただろうアヘンを、インドでせっせと栽培して中国で売りさばき、代金としての銀を中国から大量に流出させた。この片務貿易で中国は二重の苦難に陥った。

 

 それはそれとして、蒋廷黻、陳舜臣がそれぞれの本で冒頭に書いているのが、東西の全く文化の異なる国が、互いをほとんど理解することなしに邂逅したことについてである。自分の側の文化、価値観を基準にして相手をはかる、理解しようとする、交渉しようとする。そこには勘違い、自分に都合のいい誤解が生じていく。その多くが中国側によるもので、イギリス側はしたたかに中国側につけ込んだところがある。

 

 そのことは一つの歴史であって、いまさら正義を以て断罪しても始まらないが、イギリスにとっては大きな汚点の歴史であることは間違いない。イギリスは謝罪しただろうか。国家として謝罪などしないだろう。それが国家というものだ。そういう汚点の歴史の積み重ねで大英帝国の繁栄があったのだから、一度謝れば大英帝国という国家の歴史の全てを否定することになりかねない。

 

 いま習近平もトランプも相手と自分の違いを理解しようとしない。自分の価値観が正しいのだから相手は間違っている、という論理で押し通そうとする。彼らには世界全体についての思考がないかのようだ。世界中でそのような国家指導者が輩出している。人々はさまざまな価値観や異文化があるという複雑さに耐えられないようだ。

 

 世界はそもそも複雑である。その複雑さを正しいか正しくないかで二分して、単純に考えようとする。ネットの論調もSNSという短文で主張する。複雑な思考に耐えられない人々には格好のツールである。敵か味方か、自分の信じる正義の基準から見て正しいか正しくないかを判断する。その結果がどこへ向かうのか。

 

 西洋と東洋の邂逅は、互いを知らないことによって破綻へ向かい、武力に優位な側の一方的な収奪をもたらした。日本はそれを見習い、さらに中国もアメリカもそれを見習おうとしている。いま世界は互いに相手を理解しようとする気のない(そもそも能力がないのかもしれない)トランプと習近平という反知性的な二人によってどこへ向かおうとしているのか。二十世紀の大きな戦争がもたらした大量の死者の記憶は、人類を大きな戦争から回避するためのシステムを作ったはずだったが、それは幻影だったらしい。
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コメント

おはようございます
確かにあの二人を見れば知性というものは感じられませんね・・・。
後、中国を見て感じることは「人間やられたことしかできない」というどうしようもない事実です・・・。
では、
shinzei拝

shinzei様
科学知識は時代とともに増えていくので、人間の知性もそれにつれて向上しているように考えがちですが、じつはちっとも変わらないものではないかと思います。
却ってそのアンバランスさが問題を大きくすることにつながっているような気がします。

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