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2020年7月 6日 (月)

池波正太郎『剣客商売 春の嵐』(新潮文庫)

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 シリーズ十巻目にして初の長編。いままで登場したおなじみの顔ぶれが勢揃いで、秋山親子の苦難のために奔走する。

 

 秋山大治郎の名前を名乗った上で斬殺するという凶行が繰り返される。疑われた秋山大治郎は謹慎し、身動きがとれない。やがて秋山大治郎の舅である田沼意次の家人が惨殺され、次いで田沼意次の政敵である松平定信の家人が殺される。田沼意次は大治郎をよく知るから全く疑わぬが、松平定信は狂気のようになって大治郎を糾弾しようとする。

 

 この凶行には政治的背景があることが冷静にみれば分かるのだが、疑心暗鬼が高じると人は次第に冷静さを失っていく。息子の苦境に苦慮する秋山小兵衛。自分の持てる人脈を尽くして手がかりを探すのだが、さまざまな行き違いによって何も進展しない。そんな中、傘屋の徳次郎は小兵衛の思いつきに可能性を感じて、執念でこだわり続け、ついに手がかりをつかむのだが・・・。

 

 いままでの短編では、人と人との関わりをきっかけに、あたかも都合良く手がかりがつかめてしまう話が多かったが、この長編では手違い行き違いすれ違いの連続で、読者をやきもきさせてくれる。しかし人生はこちらの方が普通であるという気もする。経験的に言えば、あのときにああしておけば、というのが人生のほとんどである。

 

 わずかでも、いったん手がかりさえつかめれば、真相への道は敷かれたのも同様である。ついに犯人は小兵衛によって討たれるのであるが、その背景についての詮索は幕閣の闇に埋もれてしまう。小兵衛は、徳川幕府も先が長くないようだ、とつぶやく。
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