映画寸評(3)
『ジャングル・ブック(2016)』2016年アメリカ、監督ジョン・ファヴロー、出演ニール・セディ(声)ビル・マーレイ、ベン・キングスレー、スカーレット・ヨハンソンほか
子供のときに原作の子供向けの抄訳をわくわくしながら読んだ。巨大なオランウータンの怖さなどはいまでも忘れられない。実際のオランウータンは森の哲人と言われる静かでおとなしい生き物らしいが。
その物語が全く違和感のない実写とアニメの合成で観られるようになるとは夢のようである。アニメといっても実際にそこに虎や熊や狼がリアルに描き出されていて、動物が演技しているかのようだ。
主人公のモーグリ少年は狼に育てられる。そのモーグリや登場する動物たちが普通に会話を交わしているのは現実にはあり得ないけれど、一つのおとぎ話として楽しめばいい。何しろ声だけの出演者の顔ぶれがすごいではないか。子供と一緒に楽しんだら最高の映画だし、大人が一人で観ても楽しい。
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』2015年イギリス・アメリカ、監督ビル・コンドン、出演イアン・マッケラン、真田広之ほか
すでに引退して田舎に暮らす、90歳を過ぎて認知症の症状が出始めているホームズというのは、ホームズファンなら許せない姿であろう。しかも世間に知られたホームズのイメージというのはワトソンが大きく実像を変えたもので、この映画のホームズの姿が本物だ、と観客は納得させられていく。ホームズを演ずるイアン・マッケランは、我々が抱いているホームズとは似ても似つかない。とはいえ彼は脇役でよく目にする俳優で私は嫌いではない。
引退するきっかけとなった事件の記憶は彼を常に苦しめる。謎解きはできたが、結果的にある女性が命を失うことになったことが彼には痛恨の出来事だったのだ。この事件の真相を常に考えながら、細部が次第にあやふやになっていくホームズの恐怖、その事件の詳細が断片的に回想されながら、観ているこちらにも次第にそれが明らかになっていく。新しい事実が思い出されるたびに見えている事件の局面が変わっていく。事件の全てが理解できたとき、彼自身のこだわりも融解する。
ホームズの面倒を見ている家政婦とその息子である少年が現実のホームズをじっと見つめる。ある意味で彼らの視線が映画を観ている私自身といえるかもしれない。この息子役の少年が知的で行動的で優しさを持ち合わせた役柄を破綻なく演じて魅力的であり、素晴らしい。狷介なホームズがこの少年に強い愛着を感じて、それを支えに自分自身をしっかりと堅持する姿に涙がこぼれてくる。なかなか見応えのあるいい映画だった。
『狙撃兵』2018年アメリカ、監督ティモシー・ウッドワード・Jr、出演ジョニー・メスナー、ダニー・トレホほか
戦争映画かと思ったら違った。中東で優秀な狙撃兵だった主人公は独断で行動し、服役して除隊となる。そのあと裏社会のボス(ダニー・トレホ)の元で凄腕の殺し屋を続け、サイレンサーと呼ばれて恐れられていた。その彼もある女性に出会い、いまは殺し屋を引退して堅気の暮らしをしている。
そんな彼の元にもう一度だけ仕事をするように要請が入る。もちろん彼は拒否するのだが、それで収まるはずのないのがこの世界に関わった者に対する掟というもので、ついに彼女とその娘が人質となって、仕事が強要されることになる。
母娘を救出するために彼の逆襲が始まる。似たパターンの話は数多い。狙撃手だったのに狙撃シーンは少なくて、肉弾戦のようなアクションシーンばかりなのはご愛敬。ボスが事故で愛娘を失ってからの変調が見所で、元々異常に残虐だった男が狂気に陥っていきながら哀感を漂わせたりする。あの悪相のダニー・トレホが意外にそれを好演していた。この人、顔だけではないようだ。
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