風『風の書評』(ダイヤモンド社)
たとえば梅原猛の『塔』を取り上げて酷評している文章の出だし。
本業をそっちのけにしてある事に熱中する人を「何々バカ」という。その呼び方に従うなら、梅原猛や上山春平などはさしずめ、「古代バカ」というべきであろう。
断っておくと、本業でない分野に首を突っ込んでも、それなりに業績を上げている分には、バカとはいわれない。「何々バカ」という呼称には、のぼせてやっているくせにサマになっていない、という意味が含まれているのである。
それにしても梅原猛の『塔』はひどい本だ。
これだけ罵倒しておいて、その根拠を次々に挙げていくのである。痛快というか容赦がないというか。
その著者が開高健や向井敏、福田恆存の本には珍しく好意的な書評を書いている。本物であると認定しているのだ。嬉しくないことはない。
あとがきに、匿名書評について卑怯であると批判されていることに対し、人情利害にしばられてほめる批評が当たり前の現状に対し、それらから自由に書きたいことを書くためだ、と反論している。この本の続編である『続・風の批評』では連載が終了したからとして、自分の正体は百目鬼恭三郎であることを公表している。逃げ隠れするつもりが最初からなかったことは明らかである。
この本の辛らつきわまりない書評は痛快で、引用したいところに付箋を貼っていたら、付箋だらけになってしまった。取り上げられているのは辞書あり、歴史や古典の論文あり、詩論あり、文芸評論あり、純文学あり、SFあり、ミステリーあり、時代小説あり、児童文学あり、エッセイありで、およそ本屋の店頭に並んでいるさまざまなジャンルを広汎にカバーしてバッタバッタとあたるをさいわいなぎ倒している。それにしてもすごい読書量であるし、あらを探したらそれを検証するために別の本もたくさん調べているはずで、とんでもないパワーである。
ずいぶん恨まれただろうなあ。続巻を読むのが楽しみだ。
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初めまして。
「百目鬼恭三郎 梅原猛」で検索して、このブログにたどりつきました。
百目鬼氏の著作は『風の書評』『続・風の書評』から遺著となった『風の文庫談義』まで手元にあるほか、朝日記者時代の報道記事や連載記事も切り取っています(笑)。
暇な時に読み返し、、見事な行文と鋭い切り込みに一種のカタルシスを覚えるのですが、梅原猛の著作には容赦のない批判をしていましたね。
とくに『神々の流竄』評では「このような私の推理は、あまりに哲学的であるという人があるかもしれない」という著者の言葉を引いて「こうした推理を『哲学的』とはだれもいうまい。『三文小説的』というべきではあるまいか」には大笑いしました。
博覧強記の百目鬼恭三郎氏が65歳で逝って32年(1991年没)。彼の後継となるような書評家が出現しないのは残念です。
投稿: | 2023年2月 4日 (土) 09時33分
初めまして。
「百目鬼恭三郎 梅原猛」で検索して、このブログにたどりつきました。
百目鬼氏の著作は『風の書評』『続・風の書評』から遺著となった『風の文庫談義』まで手元にあるほか、朝日記者時代の報道記事や連載記事も切り取っています(笑)。
暇な時に読み返し、、見事な行文と鋭い切り込みに一種のカタルシスを覚えるのですが、梅原猛の著作には容赦のない批判をしていましたね。
とくに『神々の流竄』評では「このような私の推理は、あまりに哲学的であるという人があるかもしれない」という著者の言葉を引いて「こうした推理を『哲学的』とはだれもいうまい。『三文小説的』というべきではあるまいか」には大笑いしました。
博覧強記の百目鬼恭三郎氏が65歳で逝って32年(1991年没)。彼の後継となるような書評家が出現しないのは残念です。
投稿: | 2023年2月 4日 (土) 09時35分
初めまして。
「百目鬼恭三郎 梅原猛」で検索して、このブログにたどりつきました。
百目鬼氏の著作は『風の書評』『続・風の書評』から遺著となった『風の文庫談義』まで手元にあるほか、朝日記者時代の報道記事や連載記事も切り取っています(笑)。
暇な時に読み返し、、見事な行文と鋭い切り込みに一種のカタルシスを覚えるのですが、梅原猛の著作には容赦のない批判をしていましたね。
とくに『神々の流竄』評では「このような私の推理は、あまりに哲学的であるという人があるかもしれない」という著者の言葉を引いて「こうした推理を『哲学的』とはだれもいうまい。『三文小説的』というべきではあるまいか」には大笑いしました。
博覧強記の百目鬼恭三郎氏が65歳で逝って32年(1991年没)。彼の後継となるような書評家が出現しないのは残念です。
投稿: ss4910 | 2023年2月 6日 (月) 16時04分
ss4910様
コメントをありがとうございます。
書評家としての谷沢永一の著作を読んだことはありませんか。
私は高く評価しています。
もし未読でしたら、『紙つぶて』という本を探して読んでみて下さい。
辛口の書評、その博覧強記ぶりは百目鬼恭三郎に勝るとも劣りません。
ところで百目鬼恭三郎の『奇談の時代』という本は読んでいますか。
書評本ではありませんが面白いです。
たぶん古本しかないかもしれません。
投稿: OKCHAN | 2023年2月 6日 (月) 16時39分
OKCHAN様
ご返信をありがとうございます(重複投稿、失礼しました)。
谷沢永一『完本 紙つぶて』、百目鬼恭三郎『奇談の時代』
どちらも手元にあります。
『奇談の時代』は類書がなく、いまも時々読み返しています。
同書で古典、随筆の面白さを知りました。名著ですね。
投稿: ss4910 | 2023年2月 7日 (火) 09時49分
ss4910様
ご存じでしたか、失礼しました。
『奇談の時代』は日本の話ですが、中国のものを集めた澤田瑞穂の『鬼趣談義』(中公文庫)なんてのもあります。
これを手がかりに手を拡げるのも面白いです。
投稿: OKCHAN | 2023年2月 7日 (火) 10時04分
OKCHAN 様
連投、失礼します。
澤田瑞穂『鬼趣談義』は是非読んでみたいと思います(ご紹介に感謝)。
同氏の著作では『金牛の鎖 中国財宝譚』(平凡社選書/1983年)が
個人的に印象に残っています。
中国における民間の伝承説話を古文献によってまとめたものですが
博引傍証で読んで飽きることがありません(南方熊楠を連想させます)。
ただし入手は困難かも知れませんね。
投稿: ss4910 | 2023年2月 7日 (火) 10時43分
ss4910様
古書しかないかもしれませんね。
中国の志怪小説や伝記小説が好きでよく読みました。
中国について書いた随筆も好きです。
東洋文庫にたくさんありますね。
投稿: OKCHAN | 2023年2月 7日 (火) 11時03分