『S.W.A.T.(2019)』2019年中国。中国製痛快アクション、と銘打たれているが、私にはあまり痛快でもない。
公安(中国では警察は公安である)の特殊部隊の精鋭たちの訓練の様子と、麻薬組織のアジトである離れ島での潜入捜査官救出作戦が描かれる。二チームが張り合いながら訓練し、レベルアップしていく様子が陳腐で、そのアクションや鍛え上げられた肉体のみごとさが作り物めいてしまう。各チームに一人ずつ女性が配されたり、その上その女性が男女対等をことさらに言い立てるのも嘘くさい。これは公安の宣伝映画そのもので、作り物なら作り物らしく、もっと鮮やかに敵を倒してほしいものだ。なるべく殺さずに身柄を拘束しろ、といわれても、敵がマシンガンで撃ってきたら応戦するしかなく、とうぜん窮地に陥り、建前をお題目で唱えただけで結局殺しまくることになる。嘘くさいという所以である。
結局きれいごとを言いながら、やることはむちゃくちゃ、中国そのものだ。とはいえ、きれいごとを言うだけでなにもせず、自滅する日本よりマシかも知れない。
『ウルフ・アワー』2019年イギリス・アメリカ、ナオミ・ワッツ主演。
アパートの一室にひきこもっている女性の日々が描かれた映画。どうしてひきこもっているのか、なかなか明らかにならないもどかしさと、この女性の人物像が今ひとつ見えてこないことにいらだちを感じるが、それでも観続けてしまうのは、いったいどうなるのだろう、という興味が持続するからだ。観るのに忍耐が必要な映画だ。
彼女がひきこもっているアパートの周囲はたぶんニューヨークのブロンクスのようなところらしい。窓から見下ろせば、黒人の若者たちがたむろして殺伐とした気配を漂わせている。友人知人とも連絡を絶っているが、引きこもりに必要な金も底をつき、やむを得ず助けを求める。そういうやりとりから彼女がどういう人間であるのか、というよりもどういう人間であったのかが明らかになっていく。
もちろん外界は常に開かれている。閉じ込めているのは彼女の心であることは最初からわかっている。扉の外の世界への一歩が踏み出せない彼女が、ついに外界に踏み出すシーンのために映画のすべてがある。それでそれまでの忍耐が報われるかどうか、受け取り方次第である。私は忍耐の方が重かった。
『ウルフ・アワー』などという題名だから、もっとアクション映画みたいなものかと思ったら、これは彼女が聞いているラジオの音楽番組の名前であった。
『ナイト・サバイバー』2020年アメリカ
狂気の二人組、二人は兄弟なのだが、事件を起こして逃亡中のこの二人が、凶行を重ねていく。兄が多少まともで、もうむやみに発砲するな、と弟をいさめるのだが、弟は歯止めがきかない。ガソリンスタンドの売店で、殺さなくてもいい女性を殺してしまい、主人が反撃した銃弾が兄の脚に当たってしまう。
さらに逃亡を続けるが銃弾は脚に残り、出血も止まらない。病院に行くことも出来ない。そこで弟が思いついたのは、医師をさらうことだった。深夜の病院で医師に目星をつけ、自宅まで追跡し、家族を人質に治療を強要する。二転三転、ついに反撃に転じた医師の家族たち。物語はこの家族と二人組との血みどろの戦いである。医師の父親(もと保安官)役でブルース・ウイリスが出演している。
最初に母親が弟に殺されるので、これは復讐劇でもある。復讐劇は感情移入しやすく、敵を倒したときの快感は大きい。しかしすべてが終わったあとの無意味さも大きい。世の中にはこのような不条理な狂気が存在することに、神の存在がより信じられるか、神など存在しないと思うか、アメリカの分断の原点のような気がする。
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