断念残念
岐阜県の大垣は芭蕉の『奥の細道』の終点の地である。大垣は城下町でそして水の街であり、水が良いので古くから造り酒屋が多い。そして同じ伏流水の流れている愛知県と三重県の境あたりには、その大垣から分かれた造り酒屋が多い。津島から蟹江にかけての一帯である。大垣から桑名は思いのほか近く、その桑名の対岸にあたるこの一帯もとうぜん大垣から遠くないのである。
その津島酒造組合の蔵開きに、もう三十数年、毎年通い続けてきた。だいぶ前に組合主催ではなくなり、いまは一部の酒蔵が続けているところにずっと通っている。その蔵も、昨年は蔵開きが開催できなかった。今年はどうかと問い合わせたら、開催するという。さっそくいつもの面々、そして弟(一昨年に参加している)に参加を打診した。弟以外はみな参加するという。それが半月ほど前である。
しかしコロナ禍はますます猖獗を極め、下火になる気配は今のところない。野天での行事だからリスクは少ないけれど、酒を飲めば無意識に大きな声になる。一週間ほどして、不参加の申し出が始まり、一人欠け、二人欠けした。私は地元だが大阪や京都から来る友だちもいる。迷った末の断念であろう。
私は地元だから常任幹事を自認していて、参加エントリーのとりまとめや、ビニールシートなどの準備をする。一人でも行く人があれば私も行くことにしていた。そしてついに誰も行かないことになった。酒蔵に不参加を連絡した。
断念するのはまことに残念であるが、現下の情勢に鑑み、迷うことなく中止にすべきことは頭ではわかっている。それでも今年も行けないのか、と思うと鼻先に絞りたての新酒の匂いと口中に甘い味がリアルに感じられた。
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