北原亞以子『夢のなか』(新潮文庫)
慶次郎縁側日記シリーズの十冊目。好い短編がそろっている。同じことが、自分が見た世界と他人の見た世界で違って見えているということをやさしく、しかも容赦なく描いて見せて、確かにそうだなあ、と頷かせてくれる。
出口を見失った者が、何かをきっかけに、実は出口は目の前の、すぐそこにあることに気づく。そのかすかな、しかし確かな希望をほのめかせて終わる話が続く。残酷に見えた世間が、残酷なばかりではなく、逃げ場所もあること、優しさを求めた自分が、実は自分こそ他人に優しくないことに気がつくことのなかに希望がある。
こういう人情話が書ける女性というのが、実は寂しさやつらさを心底知っている人であることを、女優の冨士真奈美があとがきに書いている。なるほど。
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