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2022年6月 9日 (木)

北原亞以子『ほたる』(新潮文庫)

 平岩弓枝の『御宿かわせみ』シリーズと、北原亞以子の『慶次郎縁側日記』シリーズを交互に読んでいる。大きな特徴の違いは、『御宿かわせみ』の方が本格的な捕物帖のスタイルで、『慶次郎縁側日記』の方は凶悪な事件はほとんどなく、事件らしい事件の手前でおさまるものの多いことだ。それ以上に違うのは、『御宿かわせみ』では視点が中景と遠景であることが多いのと較べ、『慶次郎縁側日記』では、ほとんどおももいきりの近景であることだ。それが登場人物の、周りが見えなくなっている世界をより心理的に捉えることにつながっている。

 

 渦中の人物の思い込みがそのまま描かれていくからどうなることかとおもうけれど、慶次郎や別の冷静な人間の視点に切り替わったとたんに世界が違って回り出す、というその転換が素晴らしい効果を見せてくれる。これもひとつの作者の仕掛けたトリックであり、どんでん返しだ。そして現実に読んでいるほうも、はっと我に返ると自分が見ている世界に対して別の見方があるのかもしれないと気づいたりする。人間関係というのは入れ替えの効かないものでなり立っていることが多い。その囚われをどう受け流したり受け入れたり出来るかが、生きやすさにつながる。わかっていることなのだけれど・・・。

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