平岩弓枝『幽霊殺し』(文春文庫)
平岩弓枝は時代小説作家であるとともにミステリー作家でもあるので、こういう本格的な捕物帖が上手いし、そのトリック、動機付けの意外さを読んで愉しむことが出来る。
神林東吾の親友で、朴念仁で女嫌いと見られている町廻り同心の畝源三郎が、恋らしい恋をする『源三郎の恋』では恋は成就せず、悲劇に終わるが、こういう話が重ねられていくうちに登場人物達に読者はますます感情移入して、彼が後に伴侶を得ることに身内のめでたさのように喜びを感じるというしかけになっている。それはシリーズでもまだ先のことだが・・・。
その畝源三郎が珍しく病で倒れてしまうのを、親身に介抱する東吾の姿で二人の親友ぶりがうかがえるという『幽霊殺し』という話もあるし、御宿かわせみの女主人で事実上の東吾の恋女房のるいが狂人に拐かされてあわやの目に遭いそうになる『秋色佃島』という話では、るいと東吾の熱々ぶりを周囲も読者も見せつけられることになる。
平岩弓枝の描写は中景や遠景が主に使われていて、浮世絵の風景画のような効果をもたらし、読者にそれを思い描かせてくれる。映像的なのである。ドラマにしやすいだろうと思う。ストップモーションから人物達が動き出す。平岩弓枝はこのシリーズでは主に三人称の視点を使い、その視点から人物の心理を伝えていく。だから登場人物の気持ちを読者は自分で想像し、自分自身のものとして感じ取ることになる。登場人物の気持ちにほだされてつい目頭が熱くなるのは、登場人物が涙ぐむ外見に感応しているのだ。
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