山口瞳『谷間の花』
冷蔵庫がスカスカになったので、朝、スーパーに買い出しに行った。塩水につけた白菜があるので、ビーフンと炒めて食べたいと思ったのだが、ビーフンが見当たらない。乾麺のところにも中華惣菜のところにもない。以前確かにあったはずなのにないからあきらめて帰ってきた。あとであそこにあったはずだと気がついたが、また買いに行く気にならない。気持ちだけ残念に思っている。
山口瞳の『谷間の花』(集英社文庫)という短編集を読了した。一昨日の晩の夜中に目が覚めて寝られなくなって読み始めたものだ。全部で六篇収められていて、表題の『谷間の花』が全体の三分の一以上の中編である。昨日その中編を含めてつづきを読み始めたら、なんだかとても嫌な気持ちになって読み進められなくなってしまった。
新聞記者、作家、教師という友だち三人が谷間の温泉宿に行くという話で、それぞれの男の人生がフラッシュバックのように語られていて、戦後のさまざまな浮き沈み、時代の変遷、価値観の変化がそれぞれの男にどのような影を差しているのかが浮かび上がるようになっている。その生き様に同情や共感を感じるより、嫌悪感が強くこみ上げてしまったのだ。山口瞳は好きな作家で、どれほど読んだかしれないほどなのに、二度と読みたくないと思うほど、生理的にきらいな気がして本を閉じてしまった。
今日、思い直して全部を読み通した。昨日ほどの不快感は感じなかったし、著者の意図することはわかったような気がするけれど、しばらく山口瞳は敬遠しようと思う。この短編集では、『神様』という短編が好かった。偽善的ではなく、本当に神様のように善い人になろうと思って生きて、まわりの人もみな善い人だと認めた男の、実は振り返れば偽善に満ちた人生が、なんだか妙に切なく感じて、余韻が残った。
コメント