後悔しても
高野悦子『黒竜江の旅』という本を一ページ一ページ味わいながら読んでいる。中から引用しようとすると、すべて引用したくなるほど内容は濃くて素晴らしい。ふいにこの本を父に読ませたかったと思う。
たとえば吉林にて
「吉林の松花江は冬でも凍らない。そのために有名な”吉林の奇観”が生まれる。豊満ダムのタービンで暖流となった松花江が市内を流れ、外気の寒さに触れて、立ちのぼる水蒸気が河畔の木々にふれて凍り付き、銀白色の樹氷をつくり出すのである。それは壮麗な風景だと、父からよく聞かされていた。いま私が眺める風景は夏である。これが一面の白銀におおわれ、木々が樹氷と化したらどんなにすばらしいだろう。しばし立ち去りがたいひとときであった。」
父は語学の専門学校の卒業旅行に、友人と中国、満州、モンゴルを旅行した。そのときに出会った満鉄の人に勧められて、卒業後に満鉄の関連の会社に入った。そして終戦後に帰るまで中国で生活した。半分は招集によっての従軍生活だったらしいが。
父がどんな名前の会社に入り、どこにいたのか、聞いていないので知らない。かろうじて聞いたのは、山西省や河北省のあたりの戦場にいたということだけだ。それと仕事で西安の街を訪ねたことがあって、とても美しいと思った、ということだけだ。どうしてもっといろいろ聞いておかなかったのだろう。父が話さなかったのではなく、私が聞こうとしなかったのだ。後悔しても仕方がないが、取り返しのつかないことであった。
私は、父よりは子供たちに自分のことを話した。しばしば自分を美化して話した。正直に話そうと思ってもついそうなる。息子や娘がそれを聞いてどう思い、どう父親像を形成しているか知らない。そう思いながら、父は私をどう見ていたのか、そのことを考える。
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