森本哲郎『すばらしい旅』(ダイヤモンド社)
森本哲郎の本は七十冊以上あって、どれも二度以上読んでいる。ある意味で彼の本は、私の外界に対する考えの橋頭堡のようなものだ。若いとき、世界をどう捉えたら良いのか、自分とはなんなのかさっぱりわからなくて、さまざまな本を読んだ。たくさん読めば少しずつわかるものだと思っていたが、自分がどこにいるかも知らないまま、地図を持たずにさまようようなもので、いくら本を読んでも無明のままである。
まず自分の原点を定めなければならない。原点を定めるためにはどうすればいいのか。考えるしかないのである。考える対象について考えるとき、自分の原点はおぼろげながら浮かび上がるものだ。そのとき原点は点ではない。ぼんやりしたものである。これをさまざまなことに対してくりかえしているうちにぼんやりしていたものが少しずつはっきりしてくる(はずだ)。そこで初めて世界は一皮めくれて見える。無明からの夜明けである。
この考えることについて、教えてくれたのが森本哲郎だった。
副題が「人間、歳月、出会い」というこの本では、砂漠で、インドで、ドイツの森のそばの木賃宿で、森本哲郎がさまざまに思索したことがやさしく書かれている。ときに哲学的に、ときに宗教的に、ときに文学的に、ときに音楽的に、ときに歴史的に彼は考える。考えたからなんだ、といわれても答えようがないけれど、それこそが生きているということだと彼は考えるのである。考えるために旅に出るのである。
彼の本を読んでいて心底思うのは、ちゃんと外国語を学べば良かった、ということである。旅先で誰かと話すためにはどうしても言葉がわからなくてはならない。父は英語の教師だったし、中国語もモンゴル語も出来たらしい。素質がないわけではないと思いたいが、なかったのである。
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