中国農民調査
陳桂棣・春桃夫妻著の『中国農民調査』という本を読み始めている。日本では2005年に出版されたこの本は、2004年1月に中国で出版され、大センセーションを起こし、マスコミにも取り上げられたが、二ヶ月後の2004年の3月に発禁処分となった。題名に「調査」となっているが、これは調査報告書ではなく、夫妻が当時の農村の実態をルポルタージュしたノンフィクションである。
当時中国の農村では係争事件が頻発し、数十人、数百人単位の争議が、年にすくなくとも十万件以上起きているという情報が漏れ伝わっていた。北京にはその農村の実態を訴えるために陳情にやってきた農民の代表者が何万人もひしめいているというニュースも観た。いったいなにが起きているのか。
その実態の一端がこの本に書かれているのである。
帯には
「急成長する都市経済の背後で、貧困と窮乏にあえぐ9億の中国農民たち。毛沢東の革命闘争を支え、改革開放政策で豊かになったはずの彼らに、何が起きているのか。ある作家夫婦が、中国屈指の穀倉地帯を3年間取材。そこで明らかになったのは、税金や公金をでっちあげて農民を搾取する「悪代官」のような地方官僚と、圧政に耐えかねて抗議する農民を暴行、殺害するヤクザのような警察と公安の姿だった・・・。」
と書かれている。
この本を出版当時に読み始めたのだが、半分程度読み進めたところで、そのころはまだ現役時代の単身赴任中で、仕事の忙しさと自宅に置いたままであったことで、中断してそのままになっていた。読むとその恐るべき内容におぞましさすら感じるのであるが、今回最初から読み直して当時の感覚を思い出していた。
前半は実際にあった凶悪事件、そして後半はそれが中央政府によってどう取り上げられ、どう処理されていったのか、詳細に記されている。登場人物はすべて実名、地名も実際の地名そのままである。
想像通り、あるべきように対処された例は少ない。たまたま農民側の主張が認められたように処理されても、数年後には必ずといっていいほど元の木阿弥に返る。
習近平の腐敗撲滅のスローガンが中国全土で受け入れられ、支持されていった背景には、このような実態があった。しかしそのことが習近平の個人崇拝、個人独裁につながったことは、結果的にこのような中国の体質そのものを変えるというより、先祖返りにつながったようにしか思えない。
ちなみにこの本の『中国農民調査』という書名は、1920年から1930年にかけて、若き毛沢東が中国の農村調査を行い、そこから思想を展開したことを踏まえているのだそうだ。
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