レミングの集団自殺は事実ではないらしいが
開高健の『パニック』という短編がある。五十年に一度、百年に一度という竹の開花と、その実がなることで異常発生大繁殖する、鼠によるパニックを描いたものだ。事前にそれを察知し、その対策を進言する市役所の職員とそれを無視する役所の上司。そしていったんことが起こってから姑息に事実の経緯を弥縫して責任をのがれようとする人びとの姿の醜さ、その後の食害のすさまじさなどがリアルに描かれていて、私が開高健ファンになったきっかけの作品だ。
『エクソシスト』という映画は有名で、続編がいくつか作られてすべて観ているけれど、インパクトはもちろん最初のもので、しかし私が一番好きな作品は『エクソシスト2』という二番目のものだ。最初の事件が起きて四年後、再びリーガンに異変が襲う。今回のエクソシストはなんとあのリチャード・バートンであり、そして彼によって悪魔の正体が暴かれていく。ここでは蝗害、つまりバッタの異常繁殖による大食害の恐怖がテーマなのである(ネタバレなのでこれから観ようとする人はごめんなさい。あまりいないと思うけど)。
異常繁殖ということでは、レミングという鼠が有名だ。有名な理由は、この鼠が集団自殺をするとされているからだが、実はそのような事実はないという。レミングは大繁殖すると集団移動をする。その際に一部が川に落ちたり崖から海に落ちたりする。それが集団自殺に見えたらしいが、本体は移動しつづけるそうだ。
異常繁殖した生き物は、周辺のものを食べ尽くし、移動していく。そして突然激減する。その繰り返しをするらしい。これは食べるものだけの話だが、人間は食べ物ばかりか空気や水や燃料まで消費しつくしつつある。地球温暖化とはその果て、その結果であって、事態は猶予のない状態だという。しかしCOP27の会合は紛糾して収拾がつかない状態のようだ。異常繁殖の後の大激減が起こる日が迫っているらしい。それを一部の若者だけが感知している。彼らには時間がないことがわかっているのだろう。私の持ち時間は彼らよりも短いから、ちょっと他人事で、それでもエネルギー消費は極力無駄のないように努めることにしている。そもそもそれくらいしかできることがない。まさか自殺するわけにも行かないし。
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