小川糸の日記エッセイ『ぷかぷか天国』(幻冬舎文庫)を読了した。宮城谷三国志を読むのに頭がオーバーヒート気味になったので、こういう軽い本でクールダウンしようと思ったのだ。これは2017年の一年間の日記になる。日記といっても続けて書いてあったり一週間あいだが空いたりしているし、長いものも短いものもある。
小川糸に出会ったのは、『食堂かたつむり』という映画である。主演を柴咲コウ、母親役を余貴美子が演じていて、まったく先入観を持たずに見た。好い映画だった。自立ということをやわらかく教えてくれる。つまり成長物語である。見かけは大人でもほんとうに自立する大人になるためには、何かを乗り越えなければならない。煩わしい他人との関わりを、温かいありがたいものと感じられるようになったとき、ほんとうの人間になる。
原作が同名の小川糸の小説だが、そのときは原作者を意識しなかった。次に出会ったのが、『つるかめ助産院』というNHKのドラマ。島の女産婦を余貴美子が演じ、仲里依紗が島にふらりと訪れた妊娠した女性を演じていた。これもとても好いドラマで、初めて小川糸という原作者を意識した。そのあと同じくNHKのドラマ『ツバキ文具店 鎌倉代書屋物語』、さらに最近では『ライオンのおやつ』がどれも素晴らしいドラマになっている。
『ツバキ文具店』は私が別格的に大好きな多部未華子が主演で、観ていない人には観ることを進めたい。私も再放送があったら必ず観るつもりだ。『ライオンのおやつ』は題名からは連想しにくいが、ホスピスにやって来た若い女性の物語である。主演の土村芳がよかったし、なによりホスピスの代表者で看護師の鈴木京香が好い。
『ツバキ文具店』のドラマを観た頃から、小川糸の原作やエッセイを読むようになった。『ツバキ文具店』には続編もある。
この『ぷかぷか天国』では正月早々に母親が亡くなる。小川糸は母親と長い確執を抱えていた。母親の死によって、のしかかっていた重しが取れて放心した様子と、母親の思いをようやく考えられるようになっていく日々がこの年の日記なのである。
小川糸はベルリンと日本を短期、または長期に暮らしながら行き来している。表題の『ぷかぷか天国』は六月二十五日のもので、バルト三国の一番北のエストニアにいる。バルト海を挟んで対岸はフィンランドである。そのエストニアのスパホテルで海水プールでぷかぷかと浮かび、目を瞑ればまるで母の胎内にいるようだ、と思う。
思いだせば、『食堂かたつむり』でも、冒頭は生活に窮し、居場所がなくなって一番行きたくない母親の元へ転がり込むところから始まる。その母親との確執は、小川糸の原点でもあるようだ。それがなければ小説を書くようにはならなかったと本人も認めている。
本日、妻が入院している病院に行ってきた。
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