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2023年2月 2日 (木)

『つるかめ助産院』

 小川糸『つるかめ助産院』(集英社文庫)を読んだ。

 

 私は男だから妊娠、そして出産を体験することができない。それでもこの本を読むことで、少しながらその疑似体験をしたといおう。女のひとというのはすごいなあと思う。子供を宿し、生み育てるというのはすごいなあと心から思う。それにしても地球上のだれでもかれでも、その母親から生まれたのだというあたりまえのことが、ほんとうにすごいことだと思う。

 

 ある日、夫がなにもかも置いたまま失踪したことを妻は知る。人との付き合いが苦手で、夫の庇護のもとにかろうじて暮らしていた妻は途方にくれる。マリアという名前のこの妻が主人公で、彼女が人付き合いが苦手なのは彼女の哀しい生い立ちが原因なのだが、そのことは物語りを読むうちにおいおい分かって来る。

 

 彼女が夫を探すために向かったのは、以前二人で出掛けて楽しかった南の島である。そこで出会えるとも思えないけれど、とにかく何かしないではいられない。そうして島に辿り着いた彼女に声をかけてきたのが、鶴田亀子というつるかめ助産院の院長であった。マリアの様子に心配も感じたし、彼女が妊娠しているらしいことに気が付いたからであった。マリア本人はそのことを始めて知る。

 

 こうしてつるかめ助産院の人びと、そして島の人びととマリアの交流が始まる。人はみな大きな哀しみをうちに抱えてなんとかけなげに生きている。人との関わりを極端に懼れるマリアがどうやって変わっていくのか、そうして自分のなかに芽生えた命をどのように育んでいくのか、この助産院で働きながら、他人の出産や生死を見つめることで彼女は成長し、脱皮し、自分自身を見つめ直し、母親になっていく。

 

 生命について見つめ直すためにも、これから大人の女になる人はもちろん、子供なんか欲しくないという人にこそ読んでもらいたい本だと思う。つるかめ助産院がそこにあれば、この世界は本当に幸せなのにと思う。

 

 この原作の結末は、私の記憶しているドラマの結末とは違う。私はドラマの結末のほうが好きである。

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