先崎彰容『ナショナリズムの復権』
著者はナショナリズムは誤解されていると考える。いくつもの誤解についてそれをひとつひとつ根源的に論破していくのだが、最大の誤解は、ナショナリズムとは全体主義であるというもので、それは全く違うどころか、相反するものであることがこの本の主張の最大の眼目である。
著者は東日本大震災で被災し、避難者用住宅で暮らす日々を送った。その眼で見た荒廃した国土は、彼にはまさに太平洋戦争が終わった後の日本とオーバーラップして見えていた。どうしてそのように感じられたのか、それをひとくちにまとめることは不可能で、それはこの本全体を読まなければ理解できない。その思いを先哲のさまざまな思索を繙き、読み取り、関連させて行く作業がこの本を生んだ。
取り上げられている先哲とは、ハナ・アーレント『全体主義の起源』、吉本隆明『共同幻想論』、柳田國男『先祖の話』、江藤淳『近代以前』、丸山真男『日本政治思想史研究』、とその関連の思想家の著作であり、それらが著者によるどのような思索の果てにそれぞれ位置づけられていくのか、それを辿るだけでドラマチックである。
本を読んで思索するということとはどういうことなのか、そのおもしろさを教えてもらったが、もし若い時にこういう本に出会っていたら、吉本隆明ももっと意味のあるものとして私に残ったと思い、残念である。時間は取り戻せない。出来の悪い頭を持って生まれたことを嘆いても始まらない。
この本を読んだことで、先崎彰容という人が保守の論客として何をベースに語っているのかということが多少分かった。ほかにも本を取り寄せているので、引き続き読む進めるつもりである。
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