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2023年8月23日 (水)

森本哲郎へ帰る

 私は森本哲郎(1925-2014)の名前をしばしば出すけれど、どんな人なのか知っている人は少ないだろう。誕生した1925年は大正14年で、私の母と同年でありイメージしやすい。亡くなったのは母より一年早い。東大の哲学科を卒業後、社会学科の修士課程を修了。修士在学中に東京新聞の社会部記者になるが、その後まもなく朝日新聞社に移り、学芸部の記者となる。東京本社の編集委員などを歴任するが、1976年に退社し、評論家となる。日本の文明批評家、などとWikipediaには紹介されている。

 

 私が彼の文章に初めて出会ったのは朝日新聞の日曜版に連載していた『世界名作の旅』や、正月の特集版の記事である。大学生くらいのころだっただろうか。詩情と内省と文明批評がこめられたその文章に魅せられ、感銘したが、そのときは著作があることを知らなかった。

 

 就職して、与えられた営業という仕事にいろいろ思い悩む日々に、たまたま本屋で森本哲郎の名前を目にした。『生きがいへの旅』という本であった。私を再生させてくれた本である。この本では、世界をあちこち訪ね歩いた森本哲郎が、世界にはさまざまな人がいてさまざまな考え方をしているのだということがただ書かれているだけである。それなのに私は強い衝撃を受けた。人はそれぞれ違うのだ、という当たり前のことを初めて識った思いがした。

 

 当たり前だと思っているこの世界の表層の下に広い世界が立体的に拡がっていて、生まれて初めてその表層をほんの少しめくることができた思いがした。高校のときに格好をつけたくて、生まれて初めて哲学の本を買った。『世界の名著』シリーズのデンマークの哲学者『キルケゴール』の巻だった。二年ほど格闘して数ページだけ自分なりに解釈することができた。それはキルケゴールが言いたかったこととはかけ離れていたかも知れないが、私は私なりの世界の尻尾をつかんだような気がした。だから森本哲郎の文章とその論理に比較的にスムーズになじむことができた。

 

 森本哲郎はカントに始まるドイツ観念論に詳しい。もちろんあらゆる哲学をそれなりに博捜しているから、それらをさまざまに取り上げて世界を、そして文明を、さらに人間を論じている。彼は評論家というよりも思索家だと私は考えている。自らの哲学を生み出しているわけではないから哲学者ではない。彼は旅人である。彼の多くの著作のエッセンスは『世界への旅』全10巻と別巻にまとめられている。

 

 自分が煮詰まった気がしたときには森本哲郎に帰る。私には帰るところがある。十年ぶりに彼のもとへ帰っている。

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コメント

森本哲郎は多くの著作を残していますが
印象に残っているのは『文明の旅 歴史の光と影』です。
後年、『週刊朝日』の編集部に転出してからは不遇だったようですね。
百目鬼恭三郎は朝日の学芸部時代の同僚でした。

ss4910様
多分普通に手にはいる著作はたいていいまも手元にあります(40冊ほどあります)。
何度も読んだものが多いです。
幸いテレビにゲストとして出ている番組も見ているので、声も顔もリアルに記憶しています。
いろいろなことを教えられました。
私の恩人です。

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