メグレと若い女の死
『メグレと若い女の死』は2022年、フランス・ベルギーの映画。ジョルジュ・シムノンのメグレ警視シリーズは昔から有名なミステリーだが、私は読んだことがない。今回はその同名の原作をジェラール・ドパルデューが主演で映画化していて、そのシリーズがどんな作品なのか、多少感じることができた。
ドパルデューもセクハラかなにかで話題になって残念だが、私は昔から好きな俳優である。初めて見たのは『グリーンカード』という映画でそれ以来さまざまな映画を観てきて、一番好きなのは『ヴィドック』という連続殺人事件を追う探偵ヴィドック役を演じた映画である(いきなり彼が死ぬところからはじまるのが意表を突く)。
この『メグレと若い女の死』では、若い女の刺殺体が発見されるところからはじまる。当初は彼女の身元がわからずに事件の背景も見当がつかず、捜査は進展しないが、彼女が身につけていた高級なドレスが手がかりになって身元が明らかになっていく。そして解剖の結果、意外な事実が判明する。彼女がナイフで刺されたのは、彼女が死んでからだった。彼女は首を骨折し、頭部にも打撃を受けてそれが致命傷であった。
彼女の死体が遺棄された場所は彼女が死んだ場所ではないようである。彼女はほとんど他人との関係を持たない女性だったが、唯一接点のあったらしい女性が浮かび上がり・・・。
パリという町に憧れを持ってやってきて、身を持ち崩す女性も多い。それぞれの女性にはそれぞれの人生があり、とうぜん背景もある。死んだ女性によく似た女性を保護したメグレは、彼女を使ってあるトリックを仕掛ける。淡々とドラマがすすみ、この映画でのドパルデューは極めて知的で冷静な初老の男として今まで見せたことのない一面を見せてくれて、なかなか良かった。こういう映画、好きである。
印象に残ったのは、メグレの夫人で、メグレの気持ちを理解し、心から信頼していることを何気ない仕草で表現していた。愛するという事はこういうことだと思う。さまざまな映画で、警察官の妻というのは、自分をないがしろにして仕事にかまける、といって夫をなじる妻ばかりを見せられてきたので、なんとなくほっとした。
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