『事件』
大岡昇平の話題作(日本推理作家協会賞を受賞)『事件』は、以前読んだことがある。この作品は野村芳太郎監督で映画化もされたが、映画は観る機会がなかった。今回WOWOWで時代設定を陪審員のいる現代に置き換えてドラマ化された。
法廷ミステリー仕立てのこの物語の結末はおぼろげにおぼえていたけれど、それでもドラマのおもしろさは格別だった。登場人物とその人間関係が丁寧に描かれていて、最初に簡単な殺人事件に見えたものが、犯人と目された青年には動機が薄弱なのに、別の人物達には思いもよらぬ動機があることが明らかにされて、公判のたびに印象が大きく変わっていく。
このドラマを引き締まったものにしているのは、元判事で今は弁護士の役を演じる椎名桔平だ。過去を引きずりながらも冷静に事件の検証に努めて被告を弁護していく。緊張感が途切れずに、全四話を一気に見せてくれた。裁判が裁判官、弁護士、検事、そして裁判員の力量、人間性によって大きく判決に影響すること、そもそも裁判とはそういうものだということを承知の上で、なおかつ正しく裁くということ、裁こうと努めることの意味をこのドラマは明らかにしている。
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