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2023年11月19日 (日)

驪山への旅

 奥野信太郎の随筆を読んでいる。『驪山への旅』という文章で、西安や西安郊外の華清池について書かれていて、大好きな西安が思い出された。最後の部分を引用する。

 

 西安では日本人がめずらしいので、かれらはしきりにぼくたちをじろじろみていた。楊貴妃の蓮花湯(れんかとう)の跡には、特に楊貴池という名前がついている。もちろん今では誰がはいってもかまわない。さっそくその楊貴池にとびこんでみた。タイルばりの独用浴室で、白居易の「温泉水滑カニシテ凝脂ヲ洗ウ」という蓮花湯の幻からはおよそ遠のいたものではあるが、泉質はいかにも柔らかく、「温泉水滑カ」にうそ偽りはないとみた。但し少しぬるすぎるのが難といえば難といえよう。

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 私が二度目に子供たちと西安へ行ったとき、この楊貴池は上から眺めるだけで、はいれなかった。

 

 ここへきてみるとぼくたちは楊貴妃で頭がいっぱいなのだが、現代中国人にはそれよりも西安事件の方が印象が強いらしい。それはもっともなことである。この温泉の管理人みたいな男が、その事件の当時兵隊として張学良の下ではたらいていたとかで、それが手ぶり身ぶりよろしく蒋介石が捕まったときのありさまを話してくれた。ぼくはそれを聞きながら、こうして何十編何百編同じ話をくりかえしてゆくうちに、だんだん尾ひれがついていって、いつしかそれが一篇の芸能的物語となるのではあるまいかなど、その男のせっかくの武勇談には少し気の毒なような空想に耽った。

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 私が行った時も、楊貴妃そっちのけで西安事件の話ばかりする共産党のガイドがいて、苦情を言ったことがある。

 

 ぼくたちがお茶をのんだ部屋が蒋介石の起居していたところだという。あれから二十年にもなろうというのに、ガラス窓の弾痕と、かれのベッドがまだ大切に保存してあった。かれが逃げ出してとうとう捕まったという裏山の小亭もやはり今ではここの名所の一つになっている。世上一般名所旧跡発生の経過も、大方これと大同小異のものにちがいないだろう。この辺は柿の名産地だ。ぼくは浴後、蒋介石の寝ていたベッドの横でしきりにその柿の味を楽しんだのであった。

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 裏山というのが驪山である。

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