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2023年11月15日 (水)

「漢奸」と英雄の満洲

 ちょっと中断していた、澁谷由里『「漢奸」と英雄の満洲』(講談社選書メチエ)という本を読了した。

 

 著者が本書を書いた本意が、あとがきに記されている。たいへんわかりやすいので以下に引用する。

 

 まず本書全体が意図したのは、歴史における公私領域の一体化した理解、ということである。人間の公的活動は私情に動かされることもあるのだが、前者は記録に残りやすく後者は残りにくいので、その因果関係が従来の歴史学の枠組みだけでは見えてこない。なおかつ歴史は世界・国家情勢、また後世から考えた政治的合理性だけでは理解できない。推測を自制しつつも筆者が試みたのは、個人の私情をふまえた、人間的な近現代史である。近現代史にもこうした内在的理解、人間理解が可能であるとわかれば、日本人における歴史認識のハードルは下がるのではなかろうか。

 

 このような歴史記述の手法は、いままで歴史小説家がしてきたもので、学術的な記述ではひたすら私情の部分は排除される。だから面白くないことも多い。おもしろさは歴史学の目指すところではないとはいえ、そのために見逃している真実もあると思う。

 

 この本では「張作霖と張学良」、「張景恵と張紹紀」、「王永江と王賢湋」、「袁金鎧と袁慶清」、「于沖漢と于静遠」の五組の父子が章立てして取り上げられている。聞いた名前もあり、初めて識る名前もある。親子ともども少なからず満州国に関わった人たちであり、満州国が夢と消えた後の国民党時代、さらに共産党中国という時代に彼らの運命がどうなったのか、極めて興味深い。その動向が明らかなものもあり、行方が定かでない者もある。

 

 彼らの運命は、そのまま近現代の中国を知る一つの窓口でもある。たまたま浅田次郎の、『蒼穹の昴』から『中原の虹』へ連なる一連の中国のシリーズが頭の中に舞台を提供してくれていて、ここに取り上げられた人たちがそこでうごめいている気がした。興味のある人(少ないかも知れない)にはとても興味深く読める本だと思う。

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