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2023年11月17日 (金)

ぼくの父は・・・

 物忘れがひどいことは、ときに幸いである。

 

 高島俊男『広辞苑の神話』(文春文庫)という本を読了した。『お言葉ですが・・・』シリーズの第四巻で、一章一章を味わいながら読み進めているので時間がかかる。この本の本文の一番最後に 

 

 My fathar is my mother.

 

というもじり英語が紹介されている。どういう意味か考えてみて欲しい。最後に答えを書いておきます。

 

 この本はもちろん再読か、もしかしたら三回目かも知れない。読んだ尻から忘れるから、初めて読むように面白い。

 

 ひとつひとつの章に連想したことや考えたことを書いても好いくらいだが、それではきりがない。この中で『江戸博士怒る』という章と、それに関連して続く『タイムスリップ少年H』という章がすこし心にグサリときた。時代小説の時代考証がでたらめすぎるといって、三田村鳶魚がそれらをとことん槍玉に挙げて批判したという話である『江戸博士怒る』は、その次の『タイムスリップ少年H』を書くためのマクラである。

 

 山中恒・山中典子『間違いだらけの少年H』をとりあげて、それに大いに共感し、歴史や記憶についての高島俊男の考えを書いているのである。もちろんそのたたき台になっているのは妹尾河童の自伝小説『少年H』である。妹尾河童(せのおかっぱ)は舞台美術家でエッセイスト。『河童が覗いた』シリーズなどのエッセイに彼自身のイラストが挿入されていて、その精緻なイラストを眺めているだけでも楽しい、そういう人である。

 

 『少年H』は神戸で生まれ育った妹尾河童が戦時中の少年時代に体験したこと、感じたこと、考えたこと、そして神戸が空襲を受けて焼け出されたことなどが思い出すままに書かれている。私もこの本を読んだ。降旗康男監督で映画化もされていて、水谷豊、伊藤蘭が少年Hの両親として出演している。

 

 この本をとことんこき下ろしているのだ。たしかに戦争批判、日本批判、世相批判が少年の素直な目から語られているのだが、実はそれはすべて現代の自分がその時代の少年Hの中にタイムスリップして語られているだけではないか、というのである。まさにその通りで、そういう本である。戦時中の少年Hが本当に見て感じたものが語られてこそ自伝ではないかというわけで、これでは少年Hや父親だけが神さまのように賢くて、その他時代に流されている人はすべて愚かだったかのようだ。

 

 しばしば物語はそのように語られる。しかしそのことによってその時代そのものの記憶が著しく変形されてしまうことは果たしてどうなのだろうか、という指摘は私も同感するところである。この本を読んでいる私はそこまで問題意識を持たずにそのまま読んでいて、それはそれで好いけれど、しかし同時にそういう批判的な視点も持たなければならなかったということも思わされて心にグサリときたのである。

 

最後に答え
 ぼくの父はワガママです。

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コメント

大部な『少年H』は刊行時に読みました。
けれど読み進んでいくうちに1930年生まれの少年が戦中期の時局や時勢、
暮らしの内実をここまで詳細に覚えているものだろうか、という疑念と違和感が生じたことを覚えています。
記憶の美化作用という言葉がありますが、同書は左派系学者の歴史叙述や年表にまるごと依存した恣意的な記憶操作の産物ではないか、というのが当時の読後感でした。

ss4910様
この『少年H』にはネタ本があるそうで、『昭和 二万日の全記録』という大部な年表をつまみ食いして話を作っているという(山中恒・山中典子『間違いだらけの少年H』の指摘)。

『二万日』は年表だから、「いつ、どういうことがあったか」を詳細に書いてある。しかし当然のことながら、「そのことを国民が知ったのはいつか」は書いてない。『少年H』の作者の最大の失策は、それに気づかなかったことにあった。(中略)実は、公表されないことが多かったのである。

と実際にそれを確認した高島俊男が書いています。

本書(『少年H』)を読後、『間違いだらけの少年H』も読みました。
、『昭和 二万日の全記録』も手元にあります。
いい加減な言説はすぐに正体がばれて糾弾されるのですが
ネットを通じて過剰な情報洪水の渦中にあるいま
マスコミによる、それこそ恣意的な情報の取捨も自由自在なので
思想操作と言う意味で不安が募りますね。

神ならぬ身の、なにがほんとうで何がためにする言説か、の区別はなかなかつきません。
自分の考えがどこまで本当に自分の考えなのか、不安になることがありますね。

OKCHAN 様へ
11月17日 (金) 16時47分の投稿は私のものです。
名前を記入せずに送信してしまい、大変失礼しました。

ss4910様
たぶんそうであろうと思いましたが、念のために宛先なしにしました。

こんばんは
私も『昭和 二万日の記録』を持っています。
これは下手な昭和氏の本よりも昭和が分かる本ですね。重宝しています。ところでこの平成版は出るのでしょうか?出てくれたら買うのですが・・・。
では、
shinzei拝

shinzei様
自分がリアルに生きた時代ですが、記憶というのはずいぶんいいかげんなものですからね。
日本の近現代史の本はいちおう持ってはいるのですが。

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