映画『飛べない風船』
映画『飛べない風船』は2023年の日本映画。東出昌弘、三浦透子主演。東出昌弘はプライベートで非難されることのある俳優だが、演技力については私は評価している。この映画でも、豪雨で妻とこどもを亡くした暗い男を、ただ暗いだけではない、人に気遣われる魅力のある男としてみごとに演じている。
三浦透子は私の好きな田畑智子にちょっと似ている女優で、田畑智子よりも少し人生に投げやりな雰囲気を、ふてくされているような嫌みを見せずに演じることのできる魅力的な女優だ。西島秀俊と共演した『ドライブマイカー』という映画はカンヌ映画祭で受賞し、アカデミー賞にもノミネートされて、彼女も注目を浴びた。
教師として定年まで勤め上げた父親は、母と瀬戸内海の島に移住した。その母は病死し、父親(小林薫)は島で独り暮らしをしている。その父親のもとへ娘(三浦透子)がスーツケースをさげてやってくる。娘が島へ来るのは初めてである。何かがあった様子だが、父親は深く尋ねたりしない。島の人々はそんな娘を温かく迎え入れる。やがて娘はある男(東出昌弘)が妙に気にかかるようになる。
この映画は再生の物語だ。回復がなかなかできないような深い底に沈んだ人間が、さまざまな出会いや出来事によってふたたび生きる気力を取り戻すという話である。それは一つの成長物語であり、新しい自分への脱皮の物語である。男はとらわれの象徴だった黄色い風船を解き放ち、娘はふたたび社会と向き合うために島を出る。結末は甘いものではないが、新しい人生に一歩を踏み出す娘の姿に希望が見える。こういう映画を観ると気持ちが洗われる。
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