五歳児未満
養老孟司の本(『ものがわかるということ』祥伝社)を読んでいたら、面白い実験の話が書かれていた。
(実験に)参加するのは三歳児と五歳児。舞台に箱Aと箱Bを用意します。
そこにお姉さんが登場します。箱Aに人形を入れ、箱にふたをして舞台から去ります。
次に、お母さんが現れます。箱Aに入っている人形を取り出し、箱Bに移します。そして、箱Bにふたをして立ち去ります。
ふたたびお姉さんが舞台に現れます。
そこで、舞台を見ていた三歳児と五歳児に、研究者が質問します。「お姉さんが開けるのは、どちらの箱?」
三歳児は「箱B」と答えます。自分はお母さんが人形を移したことを知っているため、お姉さんも箱Bを開けると考えてしまいます。
一方、五歳児は「箱A」と答えます。なぜならお姉さんは、お母さんが人形を移したのを見ていないからです。もちろんこちらが正解です。
三歳児と五歳児は、なぜ違った答えをしたのでしょう。
五歳児は「自分がお姉さんの立場だったら」と考えました。お姉さんと自分を交換して考えられるのです。
三歳児には「お姉さんの立場に立つ」ということが出来ません。「人形は箱Bに入っている」ということを自分が知っているように、お姉さんも知っていると思ってしまうのです。
この他者の心を理解するというはたらきを「心の理論」と呼びます。発達心理学は「心を読む」と表現しますが、私は「交換する」と考えます。かならずしも心を読む必要はなく、「相手の立場だったら」と自分が考えればいいのです。
この、自分と相手を交換するというはたらきも人間だけのものです。
三菱UFJ銀行に539回の迷惑電話をかけた男が逮捕された。多いときは一日183回、長いときは六時間半におよんだという。
豊島区の陸橋から線路に向けて自転車を投げこみ、走行中のJRの貨物列車と衝突させたとして男が逮捕されたという。
茨城県日立市の市役所と東海村役場に相次いで車で突っ込んだ男が逮捕された。
実験とは直接関係ないが、世の中のクレーマーやモンスターペアレンツ、そしてたまたま目についた上記の事件を起こした人間を見ていると、五歳児に満たない知性の持ち主に思えた。もちろん匿名をいいことに他人を誹謗中傷したりする人間も同類に見える。自分が行ったことが他者にとってどうであるか、それが思慮できないという愚かさという意味で同じだと思う。
正義の味方が正義の名の下に他者を思慮できていないように見えることがあるので、私は市民運動家がしばしば苦手である。
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