『小公子』
小学生のときに繰り返し読んだバーネットの『小公子』を六十数年ぶりに読み直している。角川文庫の羽田詩津子という人の新訳版だ。七十三歳の爺さんが、子どものときに読んだ気持ちに戻って、セドリックの愛らしさに感動しながら読んでいる。むかし読んだときのように、母親のエロル夫人の素晴らしさにあこがれながら読んでいる。
この小説はドリンコート伯爵と、その孫のセドリックの物語のようだが、実はドリンコート伯爵と、息子の嫁であるアメリカ人のエロル夫人との対決の物語だと思う。対決といったって物理的に戦うわけではないが、「がさつで無教養なアメリカ女」という偏見で考えていた彼女が、いかにすぐれた女性であるか、そのことを本当に伯爵が理解したとき、伯爵は真に変わる。変えられることで彼は錆びついた厚くて重い鎧を脱ぐのだ。
1849年にイギリスに生まれ、一家でアメリカに移住したバーネットの、アメリカに対する思いがそこにこめられているのは明らかだ。エロル夫人の優しさと筋の通った強さは、現代から見れば時代遅れなのかも知れないが、私にとっては理想の美しい人に思える。いまアメリカ女性のどれだけがこの女性のような美意識を持ち合わせているだろうか。それ以上に日本の女性はどうだろうか、などと時代錯誤の爺さんは思う。こんな風だからむかしの女はだめなのだ、といわれるのだろうな。
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