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2024年3月16日 (土)

細部

 神は細部に宿り給ふ という。この頃その意味が少しわかりかけてきた。

 

 木を見て森を見ず、という言葉に教えられて、全体をまず把握することに努めてきたけれど、そのことは大事なことで当然として、それにこだわりすぎて細部を見ることがおろそかだったとこの頃強く思うようになった。

 

 細部にこそリアルな事実がある、と感じる。ただし、この頃の街頭インタビューを元にして、大衆はこう思っている、大衆の現実生活や感情はこんなものである、という報じ方には、木を見て森を見ずを感じることは変わりがない。一つや二つのことで全体に代替させては判断を誤る。そしてその一つや二つが意識して、または無意識に、先にあった結論を導くためのものであれば論外である。それは細部を注視することとは違う。

 

 ある個別の家族を取り上げて、その家族の人生を深く感じさせ、考えさせるものにはそれなりの共感を持つが、それが社会全体の問題であると短絡的に考えるのは踏み込みすぎであろう。

 

 細部を深く見つめると、恐ろしいほど底なしに深いものが見えてくることがある。神様が本当に存在してこの世のすべてを作ったのなら、その御業には心から敬服する。世の中がそういう無限とも思える深さと多さと広がりを持って成り立っていることに驚く。ものを知れば知るほど世界は知らないことと知り得ないことで満ちていることを思い知らされる。人間は神になろうとして、全知全能の力を得るために全力を傾けてきて、これからも傾け続けるのだろう。

 

 若いころ、無限の時間があればそれも可能なのではないか、などと思ったこともあったが、宇宙にも始まりがあったように終わりもあるらしく、無限の時間というものはそもそも思考の中にしかないようだ。すべてを知ろうとすることは細部をおろそかにすることにつながりやすい。数多く見るよりも、一つ一つを丁寧に見るべき年齢になった。

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