トランプは、強いアメリカを取り戻すのだという。私から見れば、アメリカは十分に強いと思えるが、トランプが考えるアメリカは、世界中に大盤振る舞いをしたあげくに、他国ばかりが利益を上げ、アメリカは損をしていると考えている。その証拠に、アメリカの製造業は衰退し、海外の製造業は利益を上げ、アメリカの労働者は貧乏になり、職も失っている。
ラストベルトを見れば明らかなように、その指摘は正しい。しかし、それはアメリカの労働者の賃金が高かったから、アメリカで生産するよりも日本や韓国や、中国で生産するほうが安く作れたからであり、明らかに競争力の問題であった。おまけに製品の品質も(一説には労働者の質も)劣っていることが多かった。関税障壁を設けて防衛に努めたけれども、海外からの製品流入はとまらなかった。アメリカ国民は安くて品質もよいものを択ぶ。それを止めようとしても無理な話しだ。
アメリカ企業の一部はついには韓国や中国に生産拠点を移し、低賃金で高品質の製品を逆輸入して利益を上げた。その時に標榜したのがグローバリズムであった。グローバリズムは市場開放で、その恩恵は韓国や中国に、そしてもっともアメリカ自身に及んだ。それを推進したのは主に民主党である。アメリカの労働者は考慮されていない。本来民主党は労働者を支持基盤にしていたはずだが、いつの間にかアメリカの利益集団を支持基盤とするようになっていた。
もうひとつ忘れてならないのは、アメリカが国内製造業を空洞化させたときに、巧妙な利益確保の手段を行使したことである。それはドルが基軸通貨であることを最大限活用して、金融でもうけるという手法を拡大させたことだ。おかげでものを作らずに、金を動かすだけで利益を生み出すという打ち出の小槌を振ることができるようになった。これでは、笑いが止まらないわけである。さらに情報を管理する会社が世界を支配するというシステムを作り上げた。実態のないもので利益を上げる、ということに大成功したわけである。アメリカはいままでよりもさらにさらに豊かになり、個人で小国の国家ほどの収入を得る者を多数輩出した。
ものを作らなくてよいのである。しからばものを作る役割の人、労働者は必要がない。だからアメリカの労働者は職を失い、サービス業でしか食べていけない社会が現出した。その労働者たちの怒りがどこに向かったか。そしてその労働者の怒りのエネルギーを集めて脚光をあびたのがトランプである。アメリカはとてつもなく豊かになったが、実際に豊かになったのはほんの一握り、その一握りが巨額の資産をひたすら積み上げ、それに不満を持つ多くのアメリカ人が怒りに燃えている。
アメリカの大盤振る舞いはやめてしまえ、という。アメリカで再びものを作ることができるようにせよという。世界のさまざまな出来事にはもう関わるな、という。アメリカ第一主義で好いのだという。しかし、アメリカの大盤振る舞いによって世界の経済が回っている。そしてドルが基軸通貨でいられるのは、アメリカが経済を廻す大きな貢献をしているからである。今さらアメリカでものを作って競争に勝てる品質のものが供給できるのか。価格競争できるのか。輸入はストップ、または高い関税で阻止するのだという。
次第に世界はアメリカではもうけられないと背を向けるようになるだろう。そうなればドルが基軸通貨である意味も失っていく。世界はグローバル経済ではなくなっていくしかない。その時にアメリカはその持っている力を自ら失っているだろう。私はアメリカのためにも世界のためにもそれでいいのだと思っている。そしてアメリカ国民もそれを望んでいるのだと思う。それがアメリカを取り戻す、ということなのだろう。
ただし、それに取って代わろうという某国が、いまよりもさらに悪しき世界をもたらしかねない恐れがあって、それをどうするのか。そういう未来は近そうであるが、みんながもたらしたものでもあるのだから、仕方がないことでもあるとあきらめている。
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