動かす
森本哲郎は、蕪村をとことん読み詰めて、蕪村についての本『詩人 与謝野蕪村の世界』を書いている。最初、講談社学術文庫版でこの本を読んだ。のちに古書店で、原著の至文堂版を見つけて購入した。大判の箱入りである。定価8900円がいくら安くなっていたか忘れた。私の宝物である。文庫版は図版が大幅に少ない。ときどき開いて眺める。
今回読み終えた『読書の旅』の中にも、蕪村について書いてあるところがいくつかあるが、そのほんの一部を要約する。
『禅林句集』の中に収められた王安石の詩句
春色人を悩ましめて眠り得ず、月花影を移して欄干に上らしむ
(悩ましい春の夜である。値千金という春の夜、眠れぬまま外を眺めると、月の光が花の影を地に落とし、その花影が月が移るにつれて動き、やがて欄干に上(のぼ)った)
これを踏まえて、蕪村は
渡月橋にてあかつきちかきころ、と前書きして、
月光西に渡れバ花影東に歩むかな
と句作した。もろこし人(王安石)はただ一物を移し動かすのみ、自分は月光と花影と二つのものを自在に動かして見せた、と自負している。
そのイメージをなんとか脳裏に思い浮かべて見るが、我ながらどうも貧弱なイメージしか浮かばない。やはり、実際に夜、月光の下でファナティックな気分になる必要がありそうだ。詩心が無いなあ。
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