痛快な毒舌、罵詈讒謗(ばりざんぼう)
谷沢永一選集を読んでいるが、極めつけの痛快な毒舌、罵詈讒謗の文章があったので、少し長くなるが引用する。この人は辛口だが、さすがにここまでのものは珍しい。よほど腹に据えかねたのだろう。
石川忠雄に文化勲章を与えたのは驚くべき錯誤であり、学問の正当な評価を蹂躙する暴挙である。『中国共産党史研究』『現代中国の諸問題』に記述されている内容空疎な建前の羅列は、一般に周知の常識にも及ばぬ公開資料の転写に過ぎず、中共が意図的に演出した外面(そとづら)を、無知と偏見で拙劣に合理化する無意味(ナンセンス)な紙屑の束であり、正当な独創の論証が一片(ひとかけら)も見当たらぬ。終始一貫して現代中国に阿諛追従(あゆついしょう)これ努める幼稚な舞文曲筆は、哀れを催す徒労である。
中共を弁解すべく、西蔵(チベット)を含む統一の完成を成果と見做して侵略を祝賀する。百家争鳴運動と称する卑劣な欺瞞(ペテン)による整風運動すなわち残酷な粛清を成功と讃える。独裁の偽称である民主集中制を恭(うやうや)しく肯定する。毛沢東-劉少奇対立説を否定する。農業集団化は順調に進行したと断言して犠牲者には触れない。
大躍進政策の不成功だけは認めるが、その修正過程に内部対立はなかったと強調する。中共の指導者(ボス)は常に和気藹々であったと言いたい。文化大革命は社会主義建設に必要であったと是認する。大衆運動方式は中共の伝統であるとの一言で、紅衛兵を聖化する。文化大革命が鏖殺(おうさつ)と破壊を齎(もたら)した事実には触れない。因みに中共は文化大革命を反省した。
中共の権威を守る為には、当初コミンテルンの支配を受けた事実が邪魔になる。そこで、国共合作方針はコミンテルン代表マーリンの判断であり、コミンテルンは直接に指示したのではないと、まことに奇妙な言い立てを記す。この件に関する資料はないと認めたうえで、己(おのれ)の主張は「一応妥当な見解とみて差し支えないように思われるのである」と臆面もなく言い募る。資料も証拠も洞察的な推論分析もなくして、「一応妥当な見解」が出せると駄弁(ほざ)くとは馬鹿か。石川忠雄の常套語。「ではないように思われる」「といいうるのではなかろうか」「否定しえないように思われるのである」。
子供のころは、朝日新聞に書かれていたことを、ほぼそのまま素直に受け取っていた。その私がおかしいな、と思いだしたのは、文化大革命についての報道の奇妙さ、違和感、そしてひたすら日本を悪者とする本多勝一の中国でのルポを読まされたからである。そのあとさまざまな本を読んで、「大躍進」「文化大革命」でそれぞれ二千万人から四千万人が死んだことを知った。朝日新聞も、この石川忠雄も知らないはずはないのである。
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