正しくてよいことであるはずのことでも
読みかけで本棚に戻してあった谷沢永一の選集第2巻の『日本史のバランスシート』という章を読んだ。この本は四章からなり、それぞれが単行本一冊のボリュームがある(実際にそれぞれが単行本だった)から、ほぼ四冊分の大部の本である。第一章は有名な『紙つぶて』を収録したもので、これは三度か四度読み直していて、この優れた書評は何度読んでもおもしろい。
『日本史のバランスシート』は、もともと『「正義の味方」の嘘八百』という題で出版されたもの。私はその題名に惹かれてこの本を一度読んで、そのユニークな視点に影響を受けた。今回読んで、前回感じなかった感想や、新たになるほどと思ったことなど、いろいろあって考えさせられ、おもしろかった。このごろエンターテインメント小説があまり読めなくなった。それは、読みながら、そして読んだあとも考えさせられる本を、より面白く思うようになっているからであると気がついた。
この『日本史のバランスシート』を読んで感じたことはいくつもあったが、それを引用して紹介するにはまだ頭が整理されていない。ただひとつあげれば、大正時代に普通選挙推進運動が盛んになった点が、結果的に昭和初期の軍部の暴走につながったという見立てにおもしろいものを感じた。もちろんそれにはいろいろな経緯があったので、制限選挙から普通選挙への流れが間違っていたというわけではない。正しくてよいことであるはずのことでも、その推移の中で悪いことの原因になるということを承知しておくことは、歴史を学ぶ上で大事なことかも知れないと思ったのである。
そういえば、光州事件などをきっかけに盛り上り、激しくなって達成された韓国の民主化がいまの国民分断の原因であり、結果であるのだという見立てを、誰か韓国の専門家が言っていた。国民が政治に熱くなりやすいのもそこに発しているだろう。民主化が悪いなどという意味ではないのはもちろんである。
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こんばんは
実は私は先先代のパク・クネ大統領の下野騒ぎの時(向こうではチョップルヒョンミョン「ろうそく革命」と言われています)に韓国に滞在していたのですが、その異様な熱気に「これは日本では絶対にしてはいけないことだ」と思いました。彼らはその時の熱情で全てを破壊してしまう傾向が極めて強いのが特徴です。それはやはり日本と違い「自分たちで民主化を達成した」という意識があるからでしょう。しかし彼らの政治ズレには30年近く前のソウル留学時代から閉口していました。とにかく向こうの人と一緒に酒を飲むと必ず政治の話になってしまい酒が不味くなることしきりでした。もし日本だったら「そんな堅い話はするな」で終わるでしょう。まあ、政治に関心があることは悪いことではないのですが・・・。
では、
shinzei拝
投稿: shinzei | 2025年1月16日 (木) 18時06分
shinzei様
ある韓国専門家が、韓国は民主化の途上にある、といい、それなのに自分たちで民主化を勝ち取ったのだから民主化は日本より進んでいる、と思っていると言っていました。
民意は移ろいやすいものであることを彼らは自覚していません。
それを自覚してこその民主化であり、多数決の筈なのですが。
投稿: OKCHAN | 2025年1月16日 (木) 18時29分