買収阻止命令に対しての非難
日鉄のUSスチール買収に対して、バイデン大統領が中止命令を出した。以前から買収反対を公言していたこともあり、この結果は予想されていたことでもあるが、専門家は間違った判断だ、と批判している向きが多いようだ(そういうものばかりが日本で報道されがちだったかも知れないから、たしかなことはわからない)。そもそもこの買収は日米双方にとって有益で、安全保障上の脅威があるという理由は理解しがたいものだ、と批判者は言っている。冷静に見ればそうだろう。
組合が猛反対していて、その組合はアメリカ人国民で、国民と国家のために重要な基幹企業を買収されるのは国家の安全保障に関わる、というのがバイデン大統領の反対のための建前である。しかしすでにUSスチールは危機に瀕しており、このまま推移すれば経営危機は深刻となり、縮小廃業へまっしぐらに進むことになりかねない。そのことは組合の幹部も承知のことである。いまそれを挽回するには、買収により、資金投入し、老朽化した古い設備更新のための設備投資をしていくしかない。その力は単独ではUSスチールにはすでにないのである。そして買収することにより、中国の過剰生産鉄鋼製品と対峙するしかないのである。
買収反対は却ってアメリカの国益に反する。選挙用に反対はしていたけれど、たぶんバイデン大統領もわかっている。それなら賛成に転じたら良かったのに、なぜ反対をしたのか。どうせ賛成しても、トランプに覆されるに決まっているから、同じことだと考えたのだろう。賛成すれば、そのことをもってトランプはバイデンをとことん罵倒するだろう。そうしてUSスチールの末路の責任を引き受けるのはバイデンではなく、トランプなのである。バイデンの側近は賛成するようにアドバイスしたらしいが、もともとバイデンは国家のことなど考えていないか、計算ずくか、やけくそか。
ところでUSスチールのCEOが、バイデンの判断は「恥ずべき腐敗したもの」と最大限の痛烈なことばで非難したという。よほど腹が立ったのだろう。しかしこのCEOも、会社のため、従業員のため、国家のために腹を立てているのではないのだと私は思っている。というのは、そもそも日鉄とUSスチールの買収の合意にあたり、組合など労働者の了解を取るための責任はこのCEOにあったのである。ところが一切表面に立たずに顧問弁護士に任せっきりであり、しかもその顧問弁護士も真剣な交渉を行っていなかったという。さらにこのCEOに対して買収成立のあかつきには巨額のロイヤリティが支払われることになっていたことも明らかになっている。
組合は弁護士からの一方的な通告のみという事態と、無能な、会社を危機に追い込んだ責任のあるCEOに巨額のロイヤリティが支払われるということに激怒したのである。すでにその時点で、会社の存続などをはるかに超えた感情的なわだかまりが生じてしまったのである。それにようやく気がついた日鉄側が、副社長直接の交渉によって何とか糸口を見つけかけたところで今回の買収中止命令に至ったのであるから、日鉄にしたら非合理的で信じられない結果だっただろう。
中止命令に対して、痛烈に非難したCEOは、ただ自分の懐に入るはずだった金が手に入らなくなったことに激怒しただけなのではないかと私は勘ぐっている。日鉄は任すべきではない者に任せたことの責を引き受けるしかない。
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