言って善いことと
言って善いことと悪いことがある。親子の間でも、それを言っちゃあおしまいだ、ということばがあるもので、『男はつらいよ』の中で、寅さんもそういうけじめにこだわったものだ。そういうことばを聞いて傷ついた寅さんは、たいていふらりとまた旅に出て行く。
いま世間はそういうけじめをまったく斟酌せずに、言ってはならないとされることを平然と言う。親からきつく戒められて、そういうことは言わないように育った身としては寒気がするけれど、世の中には言わなけりゃ損だとばかりにそういう無神経なことばが飛び交っている。
ドラマでも、そういうことばを発したくなるほどギリギリに追い詰められているわけでもないのに、びっくりするようなことを言うシーンを見せられる。そういうものを見続けると、ことばに鈍感になるのだろう。ことばが過剰になればインフレになって価値が低下する。ことばが軽くなるからエスカレートする。ついて行けない。ついて行けない、というのは、使われていることばがこちらにはそれだけ重く感じられているからである。世間に合わせて鈍感になどなれないし、なりたくもない。
現役中には、気をつけていたはずなのに、ときにエスカレートして人を傷つけかねないことばを発したこともあった。いまでも思い出すと冷や汗が出る。そういう感情にまかせたことばを発したことは、長い時間を過ぎたいまでも決して忘れられない。ことばとはそういうものだと思っている。
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