『あめりか物語』
永井荷風の『あめりか物語』を読了した。荷風はフランスへ行きたかったのだが、父の勧めで横浜正金銀行雇員としてアメリカで勤務することになる。明治三十年代の後半の四年間をアメリカで暮らし、その後ようやく念願のフランスに行く。この短編集ともいうべき小説は、アメリカのシアトルに着く前の船中の男たちの会話から、それぞれの人物のアメリカ行に至る背景などがエピソードふうに語られる『船房夜話』に始まり、最後は『六月の夜の夢』と題した、ニューヨークのスタテン島に心を残したロザリンという若い女性との恋を、フランスに向かう船中で回想する短編で締めくくる。
それぞれの短編はその趣向もさまざまで、叙情的なもの、叙事的なものからポーの描くような不気味な『ちゃいなたうんの記』のようなものまであって、読み応えがある。荷風がこれらを書くことができたのは、それだけアメリカのさまざまな世界、上流から貧民窟まですべてに足を踏み入れたり、人と交流をしたからであろう。実際にその場に行かなければ、ここまでリアルに描写し尽くすことはできないと思う。やはり永井荷風は素晴らしい作家である。
次は『ふらんす物語』を読むことにする。これも時間がかかるだろう。とことん味わってみたい。
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