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2025年3月 6日 (木)

『私の「死の準備」』

 ブログを書くために、曾野綾子の『夜明けの新聞の匂い』という本を引っぱりだしてみたら、その巻末に三十ページ弱の『私の「死の準備」』という文章があった。彼女の「死」についての考えはここに要約されていると思う。もしこの本をお持ちなら読み直されたら良いだろう。要約を私がさらに要約するのは乱暴に過ぎるので、この文章の最後の部分を引用する。

 

 人生の最後の時に、必要なのは、納得と断念だと私は思っている。
 納得するには、日々、人生の帳尻を締めて、毎日「今日が最後の日でも、まあまあ悪くはなかった」と思う癖をつけることである。それに私は小さなことでも楽しむことが上手だった。中でも自分の才能だと思っているのは、人の美点をユーモラスに見つけだせることであった。だから、私の生涯には、おもしろくていいことがいっぱいあった。もしも死んでみた後で、あの世がなくても、私は少しもがっかりしない。なぜなら、私はもうこの世で、神の雛形としか思えない人たちにも会ったし、心を躍らせるような凄まじい自然にも出会った。私はいつ死んでもいいように準備し続けている最中である。
 それと同時に断念もいる。これも、若いときからの訓練が必要だ。努力してはみるが、諦めなければならないことがある、ということに自分を馴らすことである。というか「人生は、いかなる社会形態になろうと、原型としてろくでもない所なのだから、ほとんどの希望は叶わないで当たり前なのだ」と肝に銘じることである。そう思ってみると、運命は私に優しすぎるほど優しかった。

 

 他にも付箋をつけて引用したいところも数カ所あったが、この最後の部分で十分であろう。この文章が雑誌に掲載されたのは1987年である。しかし彼女はブレない人だから、最期も同じ考えであったろうと思う。曾野綾子の冥福を心から祈る。

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コメント

こんばんわ!
曾野綾子さんの著書いっぱい読まれているようですね・・・
俺が曾野さんの小説を最初に読んだのは「絶対多数」だったと思います。「誰のために愛するか」は
あのころ何度か読みました・・・ベストセラーでしたからね~
紹介された「夜明けの・・・」を本屋で探したいと思います。

こんばんわ

私も曽野綾子さんの本には、何故かすっと共感と尊敬の念をもって、これまで数冊は読んでました。
 それでも、『夜明けの新聞の匂い』は読んではいませんでした。
ブログで引用された文章に込められた思いにまた一つ得るものがありました。
納得と断念というキーワードに込められた考え方に、曽野さんの人柄と素晴らしさを再認識しました。
読書家のOKCHANさんから、いつも良い時にご紹介して頂き、有難うございます。

でんでん大将様
私は彼女の小説はあまり読んでおりません。
随筆やコラムがほとんどです。
同じようなことを繰り返し書いているようで、その都度それなりに新たな共感を感じるので、つい新刊が出ると購入し続けてきました。
こういう人が退場してしまうのは残念です。

ひろべえ様
コメントをありがとうございます。
彼女に対しては好き嫌いが激しいようで、意外な人が彼女に強い反発を表明しています。
その分岐点がよくわかりませんが、私は概ね彼女の世界観に共感を感じてきましたし、影響も受けてきました。
彼女のいっていることは真っ当だと思います。

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