ふたたびトンネル
梨木香歩のトンネルについて書いた文章の断片を少し前に紹介したが、別のトンネルについて書いた部分を引用する。
暗い道路を通って、最後に日の当たる場所へ出る--もしかして、産道を通って生まれてきたときの記憶が、どこかに残っていて、こんなに感慨深く思うのだろうか。私たちはみな、小さな小さな受精卵からスタートし、母というヒトの胎内で孤独に自らを育て上げ、時が満ちれば、困難な産道の旅を抜けて、明るく光溢れる世界に生まれ落ちる。
それからこの世界で生きるうちに、人は孤独を穿つようにして、生を彫り込み、気づいたら、また人生というにっちもさっちもいかない、どこに逃げ出すわけにもいかないトンネルの中にいる。
やがてこの世を去るとき、また、こういう、トンネルから抜け出たような爽快な経験をするのだろうか。
そうあれかし、と静かに願う。
宇宙の始まりを宇宙の誕生などと言う。その宇宙の誕生は、ビッグバンなどと呼ばれる無から突然の爆発的な誕生だったという説がいまは有力だ。宇宙も産道を抜けて突然この世に現れたのかもしれない。永遠のものなど存在しない。人も必ず死ぬ。そして宇宙もエントロピーを増大させ続け、ついには全くの熱的平衡状態、つまり運動の存在しない静止状態となり、終末を迎える。さはさりながら、自分の死とは、この世の向こうへの旅立ちであればいいと私も思う。
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