『この世界の片隅に』
2016年に公開されたアニメ映画『この世界の片隅で』を見た。この映画は日本アカデミー賞、キネマ旬報ベストテンでベストワン、監督賞などを取り、毎日映画賞も受賞した。たいへん評判になって劇場でもロングラン上映されていたが、私は今回初めて見た。評判になった理由が見てよくわかった。何かを強く訴えるというと、かえって人は引いてしまうもので、ごく普通に自分の人生を、それも本人にとってはそれなりに山あり谷ありの人生を、静かに受け入れながらやがて穏やかにそこに安住を見いだしていくという、誰もが過ごしていく人生を描きながら、そこに戦争の理不尽が覆い被さる。
穏やかで、そしてゆったりと静かに自分の運命を受け入れていく主人公のすず(声はのん)の日常が淡々と描かれることで、かえって戦争の不条理がきわだつ。不器用で無口な亭主の不安が、そのまますずに対する優しさでもあることが救いである。最初、声を担当しているのがのんだとはわからなかった。そのままのんがすずになっていたと思う。のんは優れた女優でむかしから好きであり、彼女自身が受けた不遇が彼女をスポイルしなかったことが、そしてそれに耐えた彼女の強さがうれしいと思っている。
舞台が、二度ほど訪ね歩いて多少は知っている呉であることも感情移入しやすかった。いい映画だと思う。
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