歴史について
歴史を、ただの物語ではなく、過去の人びとの歩みから現代を見据え、未来を客観的に展望するための人文科学とする試みは、もちろんこれまでにもなされてきた。カール・マルクスやフリードリッヒ・エンゲルスが十九世紀に打ち立てた史的唯物論は、その最大の試みである。それは、世界各地で社会主義国家体制を生み出し、日本においては戦後歴史学の理論的支柱の一つとなるほどの大きな影響力を持った。しかし、それを支えるべき人間自体の科学的探求・・・ヒューマン・サイエンス・・・がその後に長足の進歩を遂げたのにもかかわらず、史的唯物論はその成果を取り入れて止揚化されることなく教条化し、科学としての力を弱めてしまった。ヒトが、感情と欲望に左右され、神や迷信からなかなか逃れられない存在である事実を軽んじたことが、史的唯物論によって立つ社会体制が不成功に終わった一因ではないだろうか。
これはいま読んでいる日本歴史の先史時代について論じられた本(『日本の歴史 列島創世記』)の前書きの部分に書かれていることである。歴史が、生きた人間によって営まれてきた過去の記憶の総括であり、それが事実の再現だけでは語れないことを示している。過去に生きていた人びとの思いを汲むことなしに歴史は語れない。
感情・欲望・神・迷信などを含む人の心の現象を科学的に分析・説明できるようになってきたのは、二十世紀の後半以降のことである。それを出発点として、数百万年もの進化が作ったヒトの心の普遍的特質の理解を元にヒトの行動を説明しようとする「心の科学」(認知科学)が生み出された。心の科学は、自然科学と連携して人間の本質を追究する新しいヒューマン・サイエンスの中心をなす方法として、人類学・経済学・歴史学などに新たな潮流をもたらしている。考古学の分野でも、人工物や行動や社会の本質を心の科学によって見極め、その変化のメカニズムを分析する認知考古学の発展が目覚ましい。この本では、認知考古学の成果を取り入れ、そうした方法論を一貫した軸として、新しいヒューマン・サイエンスの一翼を担うべき人類史と列島史の叙述をめざす。
科学はさまざまな分野においてどんどん深化し分化し、互いの関連性が見失われてきた。しかし実はそれぞれの関連性、関係性こそが重要なことなのだといま、志のある人には見直され始めている。そういう視点の高い人が書いた本を読まずにいられようか。
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