東洋文庫の『東京夢華録(とうけいむかろく)』を読了した。著者は孟元老、訳注は入江義隆、梅原郁。原本の正式名称は『幽蘭居士東京夢華録』という。幽蘭居士は孟元老の号。北宋時代の汴京(べんけい・現在の開封市で、北宋の都)と呼ばれた街の繁盛記である。実はここで描かれている汴京はまもなく金によって侵略され、天子親子や高官たちは連れ去られて北宋は滅びてしまう。生き残った皇族によって臨安(現在の杭州)に都を置く南宋が建国された。その南宋に逃れた孟元老が、汴京の繁栄と生活の様子を回想して書いたのがこの本なのである。

汴京が東京(とうけい)と呼ばれるのは、西の洛陽を西京と呼び、汴京が東京と呼ばれていたからである。北宋時代はまさにあの水滸伝の時代であり、南宋時代は岳飛の時代である。また当時の汴京の様子は『清明上河図』という絵に詳細に描き残されている。現在WOWOWで連続放映されている同名の時代ミステリーでもその清明上河図がタイトルバックなどに映されている。当時の様子を映像的に見ることができるし、解説も挿入されて楽しい。そのドラマもまもなく終わる。そのドラマに励起されていままで読み切れていなかったこの本を映像的に読むつもりで読み始めたのだ。

どんな本なのか知ってもらうために最後に近い部分の『行幸の儀衛』から一部引用する。
翌日の五更(午前四時頃)に、摂大宗伯が牌を手にして「中厳」「外辨」の旨を奏上する。甲騎兵が煽動して順ぐりに、夜半から続々と繰り出している。象は七頭、それぞれ文錦(あやにしき)を身に覆い、金の蓮花の座を背に乗せ、金の轡(たずな)を頭にまとい、錦衣の者が首にまたがる。次には高旗・大扇・画戟・長矛がつづく。それから五色の甲冑をつけた騎馬武者や、あるいは小帽に錦繍の抹額(はちまき)をつけたもの、あるいは黒漆の円頂の幞頭をかぶったもの、あるいは兜のような革作りのをかぶったもの、あるいはざるのような漆革(ぬりかわ)作りで籠巾(ろうきん)のついたのをかぶったもの、あるいは赤や黄色を浮き出した錦繍の服を着たもの、あるいは真っ青や真っ黒な服で靴や袴(ずぼん)まで青や黒のもの、あるいは脚(えい)の交叉した幞頭をかぶったもの、あるいは錦で紐を作り蛇のように身にまつわらせたもの、あるいは数十人が歌声を長く引きながら大旗を持って通っていくもの、あるいは大斧をもったもの、剣を横たえたもの、尖った盾をもったもの、鐙棒をもったもの、あるいは先端に豹尾をつるした竿をもったもの、あるいは短い杵をもったものなどがある。矛戟(ほこ)にはみな五色の結帯と銅の鈴がとりつけられ、旗や扇にはみな竜や虎や雲や山河が描かれている。また高さ五丈の旗があるが、これは「次黄竜」という。
それぞれに詳しい注釈がついているのだが、その注釈は時に本文の数倍の量がある。その注釈にはさまざまな本からの引用も含まれるし、またこの『東京夢華録』の文章が引用された例なども書き込まれている。引用がしやすい、文字の難しくなさそうなところを選んだ。そうでないと文字を探し出すだけでたいへんな手間がかかるからだ。食べ物や衣類などについての記述は、知らない、そして読めない文字だらけである。そもそも日本にないものなら日本語の読みそのものがないのであるからどうしようもない。

それらをなんとか食らいつきながら読み進めていくと、なんとなく映像的に見えてくるものがあり、おもしろくなっていく。多分もう一度読めばさらに楽しめるはずだが、その機会があるかどうか。とにかく大半はよくわからないながらも諦めずに読み終えた自分を褒めてやりたい。
引き続き『夢梁録』という三巻本を読むつもりである。これは『東京夢華録』で描かれた北宋の都・汴京(現在の開封)に対して、それに続く南宋の都・臨安(現在の杭州)の都市繁盛記である。一巻に二三ヶ月かかるとして、年内に読了できればと思っている。
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