『寺田寅彦随筆集』
昨年末頃から読み始めた『寺田寅彦随筆集』第三巻(岩波文庫)をようやく読了した。この本ばかりを読んでいたわけではないし、長い中断もあったけれど、よくまあ飽きずに最後まで読めたものだ。全五巻だから、あと二冊ある。完読するのはいつのことになるやら。
この巻では映画論、俳諧連歌論が何種類か収められているし、熊本第五高校以来の夏目漱石との師弟関係についての回想などもある。やはり夏目漱石に関する『夏目漱石先生の追憶』が最も記憶に残るものだった。
「虞美人草」を書いていたころに、自分の研究をしている実験室を見せろと言われるので、一日学校へ案内して地下室の実験装置を見せて詳しい説明をした。その頃はちょうど弾丸の飛行している前後の気波をシュリーレン写真に撮ることをやっていた。「これを小説の中へ書くがいいか」と言われるので、それは少し困りますと言ったら、それなら何か他の実験の話をしろというので、偶然そのころ読んでいたニコルスという学者の「光圧の測定」に関する実験の話をした。それをたったいっぺん聞いただけで、すっかり要領をのみ込んで書いたのが「野々宮さん」の実験室の光景である。聞いただけで見たこともない実験がかなりリアルに描かれているのである。これも日本の文学者には珍しいと思う。
これでは「野々宮さん」が「虞美人草」に登場すると勘違いしかねない。この実験室の話が描かれているのは『三四郎』という小説であり、野々宮さんの実験室を訪ねたのはもちろん三四郎である。『三四郎』をつい最近四回目か五回目を読んだばかりだから間違いない。そんなことは本を読んだ人なら知っていることで、わざわざ書くことでもないのだが。
寺田寅彦が夏目漱石の家へ入り浸るようになったのは、英語教師としての先生としてよりも、俳句に凝って指導を受けたり添削してもらったり、それを一緒に雑誌へ投稿したりしたことで親しくなったからのようだ。東京へ出てからも、漱石山房に自由気ままに出入りしていたようだ。だからこの第三巻には俳論が、それも連歌の世界についての論究が多い。その連想こそ映画のモンタージュという手法と通じる、などと書き、外国の映画論もずいぶん読んでいて、それについて言及している。映画作品もけっこう見ていたようだ。
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